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敗戦3
いつ逝ってもおかしくない仔の枕元で。
私は本を読んでいる。
撫でられるのも負担らしいので何もしない。
椛が時折目をあげて私を見る。
私も椛へ視線を返す。
負担にならないよう灯りは私の手元だけにして。
重くないよう音量を抑えて。
まだ光の残っている椛の瞳へ、愛してるよと囁いている。
椛は満足そうに目を閉じる。
椛は我家で、幸せだっただろうか。
十年探し続けてやっと出会えた、黒いダイヤモンド。
いつだって椛を見るとき、眩しくて嬉しかった。
こんな素晴らしい子に選んでもらえた自分が誇らしかった。
椛のほうは、幸せだっただろうか。
私はこの子に何をしてあげられただろうか。
自問自答しながら、消えようとする命の灯を見つめている。
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