遺品整理
独り暮らしのお婆さんが亡くなられた。
近所に住んでてなにかと世話をしていた次男さんが、
遺品整理をしていた。
書類ケースから、保険の証書が出てきた。
小さな傷害保険。お婆さん本人用と、長男さん用の、二通。
次男さん用のは、なかった。
ささやかな年金から掛け金を捻出するのは、二通が精一杯だったのかもしれない。
生命保険の死亡保障は、その人が亡くなったら生活費に困る家族の、
暮らしのために掛けるもの。
でもその傷害保険は、怪我をした時のための小さなもの。
怪我なく穏やかに暮らせるよう、祈るためにかけるもの。
次男さんは「ははっ」と乾いた笑いをして、無言になった。
心の声が聞こえた。
お袋は最後まで、兄貴だけが好きだったんだな。
人の心は難しい。
親だからといって子を愛せるとは限らない。
肌の合わない子が産まれることもある。
複数の子がいる親御さんが、片方だけを偏愛する姿は、
そんなに珍しくもない。
好悪の情は自然になるものなので、
愛せないほうを理性で無理に愛そうとしてもできるものじゃない。
親にできるのはせいぜい感情を隠すことぐらいだが、
小さな仕草や空気の動きで、人の本心なんてすぐバレる。
めったに帰省もしない長男さんだけが愛されてること、
次男さんも知っていたと思う。
それでもそばにいて老親の世話をしていて。
最後に残ったものが、書類ケースの底に埋もれた証書が二通だった。
どうにもならない悲しみは、誰にでもある。
私は何も言えなかったけど、心の中で手を合わせた。
次男さんに伝わるよう祈りをこめて。
こんな時こそ、マツケンサンバ。
一緒に踊ろう。
私も一緒に踊るから。
ギンギラギンの着物着て、朝まで踊ろう。酒でも飲んで。
オーレ!!!
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