老いたバンドマン
これまた大昔のこと。
私の学生時代はバンドブームだった。
私もよくあるヘビメタで、有名バンドのコピーをしていた。
鋲ビスついた黒の革ジャン、バンドT、破れたデニム、黒ブーツ。
極彩色に染めた長髪。
電車に乗ると、なぜか私の隣には人が座らなかった。
ちょっと怖い人に見えてたらしい。
周囲も似たような人ばっかりだった。
とはいえまだネットもない時代だったからか。
若造どもは自分の力量を見誤りがちだった。
努力も才能もないのにプロ志望を名乗り、
学校を辞めてく人たちもいた。
姿を見なくなった彼らがその後に何をしてるのかは知らない。
レコード会社からデビューした方々の商材写真の中に、
彼らの姿はなかった。
きのう電車で、老いたバンドマンを見た。
あの頃の自分たちと同じファッションで。
エレキギターとエフェクター類を持っていた。
学生だった私たちはそれらの機材を軽々と担いでいたが、
老バンドマンは、古い小さな台車で運んでいた。
プロになりたくて学校を辞めた彼らは、
いまごろ何をしているのだろう。
もしアーティストになれなかったとしても、
スタジオミュージシャンなどでギターで食べてるのだとしたら。
すげえ頑張ったじゃん、と肩を叩いて賞賛したい。
もしアーティストをあきらめてリーマンになったのだとしたら。
道なんてどこでもいいじゃん今は幸せだよね、と健康を寿ぎたい。
夢なんて、叶っても叶ってなくても、
どっちでもいいと思う。
あるべき方向へ全力で走ったなら、どんな結果になろうと、
後悔はしないから。
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