ミンティア
仕事中。
眠気を飛ばすためにミンティアを常備している。
たまたま一粒が手からこぼれて、
どこかに消えた。
しかたがないのでもう一粒を出して、
口に入れた。
私のデスクの後ろには、営業補佐的な、
お手伝係の若いお嬢さんたちが巡回している。
お嬢さんたちがそっと寄ってきて、
後ろから声をかけてきた。
差し出された手のひらには、ミンティアが一粒。
「あの……」
「食べませんよね、これ?」
あえて聞きたい。
食べると思ったのか?
トイレから出てきた靴でそのまま歩く、
年中ゴキブリ駆除の業者が出入りしている、
何十年も交換してないシミだらけの安物絨毯。
そこを転がったミンティアを。
食べると。
思うか?
ミンティアのかわりにお嬢さんたちを頭からバリバリ食べそうになったが、
ぐっとこらえて。
ミンティアを受け取った。
「食べませんけどね」
念を押しつつ。
まさかお嬢さんたちのきれいな手を汚すわけにもいかんので、
自分で捨ててくるために引き取った。
「食べませんけどね」
大事なことなので二回、念を押しながら。
ゴミ箱を行く道すがらの廊下で。
上層部とすれちがった。
うっかり彼にミンティアを手渡さなかった、
私の理性をホメていただきたい。
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