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正義の味方  作者: 春原 恵志
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プラチナシード

プラチナシード


フリーランスの記者、妙高ちとせは正義の味方案件と並行して、茉莉華調査も進めていた。まずは冷泉三有本人の身元調査から始めることにした。自腹を切るしかないので金銭的には痛かったが、探偵事務所に調査を依頼した。これもネタ入手のためには致し方ない経費だ。

その調査結果は想像以上に興味深いものだった。

冷泉三有は10歳の時に現在の母親の養子になっていた。さらにその養子になった経緯が不明だった。調査会社によると、これを調べるためには別途高額費用が掛かるとのことであきらめた。よって10歳からの経歴調査のみとなった。

茉莉華(冷泉三有)は立川市内の公立小学校を卒業。小学生のころから成績優秀で地元ではそれなりに有名だったらしい。6年生の時に生徒会長もやっている。そしてそのまま地元の公立中学校に進学した。ここでなぜか柔道部に入部し、3年生の時にはなんと東京都大会で優勝し、さらに全国大会にも出場している。そして全国大会では団体で3位入賞、個人でも準優勝している。この時、優勝した人間はその後、オリンピックの金メダリストになっている。さらに驚くことに茉莉華は柔道は中学校で辞めている。

 多摩地区進学率一位の都立高校に入学し、ここでは剣道部に入部。弱小剣道部を盛り上げ、インターハイにも出場している。ここでの学業成績も優秀で現役で国立大学に進学している。柔道も剣道もそれ以前はやったことがないはずだが、非凡な運動神経の持ち主だったらしい。またそれぞれで部長もやっている。まさに非の打ち所がない。

 モデル事務所のプラチナシードには高校時代から所属している。この経緯は不明。おそらくスカウトされたものと推定される。

 大学入学と同時に本格的にモデル活動を開始している。大学での成績も優秀で成績優秀者に寄贈される学業優秀賞で記念の腕時計を受領している。大学時代はクラブ活動は行わず、モデル業に専念している。モデル時代の逸話はすでにメディアにさらされていて割愛している。

 男性関係の噂は皆無だった。中学高校のクラブ活動でも特定の友人はいなかったようで、広く薄い付き合い方だったようだ。

 そして妙高が最も知りたかったことは10歳以前の彼女だったが、養子についても特別養子縁組となっており、戸籍では三有の過去が確認できないものとなっている。よって原戸籍入手が必要となるがこれには別途、高額費用を請求されたため、この情報を持って自分で調査をすることにした。

 まずはプラチナシード事務所の社長と面会することにした。週刊誌の記者として事務所の動向取材をネタにすることで面会のアポイントを取り付けた。プラチナシードは渋谷にある。道元坂の先にある高層ビル内のワンフロアーがプラチナシードになっていた。

 妙高はビルのエレベータに乗り、10階の事務所に到着。入口には面会者用の電話機が置いてあり、そこから連絡するシシテムになっていた。

 事務所内の個室で待つこと10分、社長が現れた。柳沢麗子。年齢はおそらく50歳ぐらいだろうか、自然な銀髪を後ろで束ねていて、眼力も鋭くいかにも切れものといった印象である。この10数年でこの事務所を一流にした人物だけはある。立ち上がって妙高が挨拶する。

「今日は取材を受けていただきありがとうございます」

「初めての方ね。週刊ジャーナルさんには痛い目に合ってるからね。お手柔らかに」それなりに笑顔を見せるが心からの笑みではない。

「今回はそういった内容ではないですよ。こちらこそ、よろしくお願いします」

 名刺交換をおこなう。柳沢は名刺を見て「えーっと、貴方、出版社に所属してはいないのね」

「そうです。フリーランスで参加しています」

「そうなの、大変ね。収入も安定しないでしょ?」

「そうなんです。もうキリキリです」業界人だな。こちらの事情もよくわかっている。

「それで、今日はうちの何を取材したのかしら?」

「はい、今、プラチナさんで売り出し中の新人についてお伺いできればと思いまして、私、最近アイドル事情のルポを続けておりまして、その一環で何かおすすめがあればと思いまして」

「そうなの。それはうちとしてもありがたい話ね」

 柳沢社長は数人の新人タレントのプロフィールと売りのポイントを説明してくれた。もちろん、妙高にはあまり興味はないことだが、タレントの売り出し方には興味があり、それなりに取材をおこなった。

「あなたのほうで興味がありそうなアイドルがいたら、ぜひ、集中取材してください」

「はい、持ち帰って編集長とも相談させてください」ここで妙高は本題に入る。

「ああ、社長さん、実は私、ちょっと前に茉莉華に会ったんですよ」

 瞬間、社長の顔が鋭くなる。妙高に戦線布告でもしようかといった雰囲気である。

「え?茉莉華?ああ、彼女どうしてるの?」

「今、武蔵大和署で刑事をやってるんですよ。ご存じでした?」

「いえ、辞めてから会ったこともないわ。そうなの刑事さんやってるの」

「そうなんです。相変わらず、すごいオーラで、ところで彼女がやめたときは大変でしたでしょ?」

「昔の話よ。もう忘れたわ」

「そうなんですか?」

「元々、そういった契約で始めたからね。えっともういいかしら」

「ああ、はい、長々とすいませんでした。すみません、あともう一件、茉莉華さんって養子だったってご存じでした?」

 柳沢の顔がさらに曇る。やはりこの件も知っている。

「へー、そうなの知らなかったわ、そういった話はしなかったと思うわ。それじゃあ、また、なにかあったらよろしくね」

「はい、どうもありがとうございました」

 取り付く島がない感じだ。やっぱり何かありそうだ。取材は終了となり、妙高はけんもほろろに帰されてしまった。エレベータに乗りながら、これからどうやって調査するか考えた。やはり養子前の原戸籍入手が必要だ。探偵事務所に頼むしかないのか。金銭的に相当痛い。出費を回収できる見込みもない。そういう戸籍を自分で調べるにはどうすればいいのかをスマホで検索するも、どう考えても違法行為で入手するしかないようだった。面倒くさいから探偵に頼むかな。

 妙高が渋谷駅に向かう途中でスマホが鳴る。表示を見ると若月だ。

「はい、妙高です」

『先輩、お久しぶりです』

「おお、どうした。何かあった?」

『今、大丈夫ですか』

「うん、これから帰るとこだけど」

『つまんない話ですよ。この前、正義の味方を見たことがあるかもって言ったの覚えてます?』

「ああ、そんなこと言ってたな。何、思い出したの?」

『はは、それが飛んだ人違いで』

「どういうこと?」

『うちの会社の研究所にいる人に似てただけでした』

「え、その人じゃないの?」

『違いますよ。その人もうじいさんですから』

「そうなんだ。でも似てたの?」

『写真で見るとそうでもないんですけど、あの時はなんかそんな気がしたんですよ。僕としては人違いでも思い出してすっきりしましたけど』

「そうなの。ああ、でもその人の写真はあるの?」

『ありますよ。学会用に撮ったやつですけど。見ます?』

「うん、一応、送ってよ、話のネタにさ」

『了解しました。そのうち送ります』

「じゃあね」

『はい、また』

 また、ネタが途切れた。さて、茉莉華ネタをどうするか、妙高は思案する。とにかくお金が欲しい。


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