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7.三周年のお祝い

「それでは、後宮三周年をお祝いして。乾杯!」

「かんぱーい!」

 リーダーの掛け声とともに、楽しい宴が開始された。いつもの食堂のテーブルの上にはいつもよりちょっぴり多めの料理が、それなりにパーティーには見えるくらいの華やかさをかろうじて演出している。

「一年目の見る影もないよね~。」

「仕方ないでしょ、お金がないのよお金が。」

「あんたもっと稼いできなさいよ。」

「はあ?あんたこそ猫の手のほうが役に立つって言われてるくせに……、」

 まあ、ちょっぴり過去の栄光を振り返ってしまったりもするけれど、この一年間自分たちだけで頑張ってきたほうではないだろうか。お金がないとそこかしこで小競り合いが起きるものだが、今やみんなそれ以上の絆でもって結ばれている。そういうわけで喧嘩している二人を横目にみんなでパーティーを楽しんでいると、急に食堂のドアが大きな音を立てて開いた。ヨルギたちは全員すでにここに集まっているから、外部からの訪問者なことは明らかだった。

 まさか。ヨルギたちはみんな、喧嘩していた二人までもが顔をしかめて入り口のほうに注目した。そこには入り口の四角い空間を切り取って、前回と同じように横暴眼鏡が偉そうに立っていた。

 やっぱりか。みんなが一様にくしゃっと顔をゆがめて迷惑そうな顔をしてみせたというのに、眼鏡の男は平気な顔をして、まるで自分の家に帰ってきたかのように堂々と食堂の中まで踏み込んできた。

「あ、ルークス様。ごきげんよう。」

 そしてやはりリーダーだけが男に対して丁寧に挨拶した。ヨルギたちは敵意も新たに眼鏡を睨みつける。この男が来るといつも余計なことしかしていかないからだ。

「なんだ?このありさまは。」

 眼鏡はやはり不満げにヨルギたちのパーティー騒ぎの様子をじろりと一瞥した。

「あ、今日は後宮設立三周年ですの。そのお祝いに……。」

 リーダーがやっぱり、丁寧にもわかりきった説明をした。しかし彼もやっぱり、その楽しいお祝い騒ぎそのものを漆黒で塗りつぶしてやりたいのだと言わんばかりの敵意を即座に撒き散らした。

「なにが三周年だ、くだらん。三年も経っていて、未だにお世継ぎの生まれる気配すらないらしいではないか。」

「それは……、その……。」

 何の配慮もないもっともな指摘に、リーダー以下全員がくやしくうつむいた。ヨルギたちが集められてから丸三年。その間、お世継ぎどころか、実は未だ皇帝陛下は一度も後宮にいらしてはいないのだった。せっかくみんなでアルバイトしてまで頑張っているのに、日々時間だけが過ぎていく。もしかしたら、自分たちにエース・オブ・ロリータの才能はないのではないか……。そんな不安に侵食されつつある彼女たちにとって、眼鏡の言葉は第三者からの冷静な指摘となって襲い掛かった。

 みんなが静かになってしまうと、反対に男のほうはふんと勝ち誇ってその嫌味な顔をさらに大きくした。

「父上に進言させてもらった。こんなアルバイトばかりしているような後宮など、存在自体が帝国の恥だと。」

「横暴!」

「眼鏡!」

「ロリコン!」

 眼鏡が喋るやいなや即座に飛び出した罵倒に、さすがの彼も多少ひるんだ様子になった。

「……まだ何も言っていないだろう。あとロリコンではない。」

「存在自体が恥とか言っておいて、まだ何も言ってないですって?」

「ルークス様。それは皇帝陛下にも失礼なのでは……?」

 リーダーにまで冷静に諭されて、眼鏡は一瞬彼女の視線を受けてうっと詰まったようだった。が、すぐにわざとらしい咳払いとともに大きな顔を取り戻した。

「残念だが、今回のことはすでに陛下ご自身にもご納得いただいている。」

 その思わぬ眼鏡の言葉に、食堂中がどよめいた。

「うそ……。」

「私たちですら、陛下のお目にかかったことすらないというのに……。」

「ロリコンでもない眼鏡のくせに、陛下とつながりがあるというの……?」

「思わぬ伏兵……。」

 眼鏡は動揺するヨルギたちを一瞥すると、陛下お墨付きの宣言だということでいつにも増して得意げな様子で言った。

「このような後宮に関わっていても無意味だということを、父上にもご理解いただいた。ただいまをもって、トストレース家は後宮に関する一切の事業から手を引かせてもらう。」

 つまり……?ヨルギたちは再びざわりとした。この後宮はトストレース侯爵が強引に進めた計画だということはあまりにも有名だった。そのせいで意地悪眼鏡が使用人や資金をヨルギたちから奪い取っていってしまってもなんの反論もできず助けも来ず、自分たちで協力して活動を続けるしかなかったのだ。そのトストレース家が後宮から一切の手を引くということは。

「今後、お前たちに王宮にいる資格はない。後宮は解散させる。」

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