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6.二年目の危機

「みなさん、申し訳ありません。わたくしにもっと力があれば……。」

 眼鏡の去っていったあと。残された料理の上でリーダーはため息を吐いた。

「謝らないでよリーダー。全部あの眼鏡が悪いんだから。」

「そうそう。」

 みんなはリーダーを責めるどころか、逆に口々に慰めた。使用人を取り上げられてからというもの、この一年間でさらに高まったヨルギたちのチームワークはこんなことくらいではびくともしないのだ。

「でも、今度こそ本当にやばいよ。」

「うん……。」

 しかしそれはそれとして現実問題、ヨルギたちが窮地に立たされていることも事実だった。眼鏡への怒りがひと段落ついてくると、あちこちで不安の声が上がる。支援金がなくなるということは、日々のロリトレ(ロリータトレーニング)どころか明日のご飯にも事欠くということなのだ。

「ねえリーダー。リーダーの実家からお金もらえないの?」

 一人が窺うようにリーダーに水を向けた。

「え、ええ……。それは……。」

「ちょっと。リーダーにだけ負担させるのは悪いよ。」

 あいまいに困り顔をしたリーダーをかばうように、もう一人が前に出た。

「ほら、あんただって商人だかなんだかの娘なんでしょ?パパからお金もらえないわけ?」

「えーっ、なんで私ばっかり。」

「だってうちはただの農家だもん。お金なんてないよ。」

「うちも。だから陛下のお目に留まって、がっぽり稼ごうと思って来たのに……。」

 がっぽり稼ぐどころか、エース・オブ・ロリータになるという志半ばにして自分たちの生活すら危うくなってしまった。一体、このあとどうすればいいのだろう……。楽しかったパーティーは一転、お通夜のような沈鬱な空気に支配されてしまった。

「あ、あの、みなさん。わたくしの実家にも頼んでみますが……。」

 それをとりなすようにリーダーが慌てて顔を上げた。しかしその語気の頼りなさから、あまり期待できそうにはないと誰もが感じとった。そもそも、昨年の使用人問題のときにリーダーの実家とトストレース侯爵の財力の差ははっきりとわかっているのだ。もしリーダーの実家から融資してもらえたとして、今までの支援額には到底及ばないだろうことは誰の目にも明らかだった。きっと、ここにいる百人もの生活費には到底足りない……。

「……人数を減らせば?」

 そこにぽつりと、再びのコペルニクス的発想が現れる。

 しかしみんなの顔色は冴えないままだった。おそらく、口に出さずともそう考えていた者は多かったのであろう。昨年と全く同じ展開だからだ。しかしそれでは、これまで共に研鑽してきた仲間たちの誰かがエース・オブ・ロリータになる夢を諦めなければならないということになる。誰かを蹴落とすなんて、またはもしかしたら蹴落とされるのは自分になるのかもしれない。そんな葛藤が誰の心の中にも渦巻いているようだった。

「……そうよ。おばさんはとっとと諦めて。」

 多くがまだ迷って口を開けないでいるうちに、彼女らの中では比較的年少組に入る少女が再びぽつりとつぶやいた。

「なんですって!」

 その言葉に、年長組が殺気立つ。またも、昨年と全く同じ展開だった。

「ちょ、ちょっとみんな、落ち着いてください。」

 こんなところで仲間割れをしてしまったら、それこそ眼鏡の思う壺だ。思わずヨルギが口を挟んでしまうと、

「じゃあ、どうしろっていうの?」

「あんたがお金払ってくれるわけ?!」

「それは……。」

 代替案もなしに口出しをするなとでも言わんばかりの集中砲火を受けてしまった。

 つい頼みの綱のリーダーにちらりと視線を向けてしまうと、彼女も困ったようにヨルギと視線を合わせるのみだった。お金がなければ何もできない。この中で一番裕福な実家を持つであろうリーダーでさえも解決できない財力の問題に、比べるべくもなくそれ未満であるヨルギたちは沈鬱に沈黙するしかないのだった。

 でもこんな風に重い空気に包まれてしまうのも、みんなロリのエースになるという夢を諦めたくないからこそなのだ。みんな、気持ちは一緒なはず……。それなのに、お金がないというだけで、こんなところで諦めなければならないなんて。

 このままでは本当に、仲間を減らすという選択肢を取らざるを得ない。そんな不穏な空気が食堂内に蔓延し始めたその時。

「……ていうか、みんなでアルバイトしたらいいんじゃない?」

 一人のつぶやきが一筋の光明となった。

 ・

「ロリ帝~!」

「ファイッオー!ファイッオー!」

 夕暮れ時の薄暗い空間に、少女たちの掛け声と足音が響く。

「声が小さーい!!」

「はーい!!」

 一日働いてきて、その後でさらにロリトレをしなければならないというのは想像以上に大変だった。

「休んでる暇はないわよ!次千本ノック!三十分で済ませるわよ!」

「はいっ!」

 しかも、仕事が終わった後に夕方からトレーニングを始めるため、真っ暗で何も見えなくなってしまう前にメニューを終えないといけないのだ。当然、休む間もなく密度も負荷も高いものとなる。

 それでも……。

 汗だくでせわしなく動き回る仲間たちを見てヨルギは思った。

 それでも、誰一人欠けることなくここまで来れた。二度にもわたる危機を乗り越えて、それは確実にヨルギたちの自信となった。みんなで力を合わせれば、不可能などない。そんな確かな信頼が、熱気とともにあふれていた。

 もはやどんな不利な状況に陥っても、彼女たちが研鑽をやめることはないだろう。エース・オブ・ロリータとなれる、その日まで。

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