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5.二周年のお祝い

「それでは、後宮二周年をお祝いして。乾杯!」

「かんぱーい!」

 リーダーの掛け声とともに、楽しい宴が開始された。いつもの食堂のテーブルの上にはいつもよりちょっぴり華やかな料理たちが所狭しと並べられている。

「なんだかんだ、私たちよくやってるよね。」

 この日のために奮発された料理をもぐもぐと食べながら、自然とヨルギたちはこの一年を振り返っていた。

 横暴眼鏡によって使用人たちが一人残らず連れ去られてしまったあとは途方に暮れたが、みんなで再び一致団結して協力したおかげで今日という日を迎えられた。しかも、誰一人欠けることなく。やっぱり、チームワークって大切だなあ……。ヨルギがじんわりとしていると、

「いやー、このイモ入れてんのは未だに信じらんないけどね。」

「うちの故郷の伝統料理に文句つける気?!」

「あんたの故郷頭おかしいのよ!」

 とある一角でぎゃあぎゃあと言い争いが始まった。

 ……まあたまに、いやけっこう、喧嘩沙汰になることもあるけれど。もはや恒例行事のようなもので、お約束というかなんというか、あの二人も別に本気でお互いをけなしているわけではない……だろう。たぶん。

 うん。そういうことにしておいてそのほかのみんなで楽しくおしゃべりを再開していると、急に食堂のドアが大きな音を立てて開いた。ヨルギたちは全員すでにここに集まっているから、外部からの訪問者なことは明らかだった。

 誰だろう。ヨルギたちはみんな、喧嘩していた二人までもがきょとんとして入り口のほうに注目した。そこには入り口の四角い空間を切り取って、去年と同じように横暴眼鏡が偉そうに立っていた。

 またか。みんなが一様に嫌な顔をしてみせたというのに眼鏡の男は平気な顔をして、まるで自分の家に帰ってきたかのように堂々と食堂の中まで踏み込んできた。

「あ、ルークス様。ごきげんよう。」

 そしてやはりリーダーだけが男に対して丁寧に挨拶した。ヨルギたちはもはや形だけのお辞儀すらしようとはしなかった。この男が来るとろくなことにならないからだ。

「なんだ?このありさまは。」

 眼鏡はやはり不満げにヨルギたちのパーティー騒ぎの様子をじろりと一瞥した。

「あ、今日は後宮設立二周年ですの。そのお祝いに……。」

 リーダーが代表して、いつもこんなバカ騒ぎをしているわけではないのだと弁明した。しかし彼はやっぱり、その楽しいお祝い騒ぎを台無しにするために来たのだと言われたほうが納得できるほどの敵意を即座に撒き散らした。

「なにが二周年だ、くだらん。二年も経っていて、未だに一度も皇帝陛下が後宮までお出ましになったことはないそうじゃないか。」

「それは……、その……。」

 憎らしいほどにもっともな指摘に、リーダー以下全員がうつむいた。ヨルギたちが集められてから丸二年。その間、未だ一度も皇帝陛下が後宮にいらしていないことは全くの事実だったからだ。家事に時間を取られることが増えたとはいえ、トレーニングのほうも怠ってはいない。それなのにまだ皇帝陛下にご満足いただけていないというのでは、まるで成長していないと言われても仕方のないことだった。

 みんなが静かになってしまうと、反対に男のほうはふんと勝ち誇ってその嫌味な顔をさらに大きくした。

「父上に進言させてもらった。こんなところに投資しているのは資金の無駄遣いだと。ただいまを持って、運営費の援助を打ち切らせてもらう。」

「えっ!」

 そんなことになったら、今度こそ本当に生活が立ちいかなくなる。ヨルギたちはここぞとばかりにざわりとどよめく。

「そんな!」

「横暴!」

「眼鏡!」

「っていうか、あんたが勝手にそんなことしていいわけ?」

 その少女の指摘はもっともだと思えた。ここを運営しているのはトストレース侯爵、父親のほうだ。いくらその息子だからといって、勝手にそんなことを決められるわけが……。

 しかし唯一の希望にすがるヨルギたちに、無慈悲な現実が告げられる。

「すでに父上にはご納得いただいている。お前たちも陛下のお目に留まるかもなどという幻想は捨てて、さっさと田舎に帰るんだな。」

 全てを手のひらに掌握しているとでも言わんばかりの傲慢な態度だった。そして実際、ほとんどその通りなのだった。ヨルギたちにはこの眼鏡を飛び越えて、トストレース侯爵に直接抗議できる手段がない。

「これでわかっただろう、お前がしていたのは無駄な努力だったと。」

 もはやヨルギたちになすすべはないことを見て取った眼鏡は、リーダーに矛先を向けた。彼女は気丈にも背筋を伸ばして眼鏡と相対しているが、動揺からかその顔色は悪い。

「リーダー……。」

 みんなもすがるようにリーダーを見た。彼女の決断が後宮の未来を決定することになるだろう。そんな空気を感じ取っていたのだ。今やみんなの不安と希望が、リーダーの両肩にのしかかっていた。

「こほん。それで、お前さえ良ければ俺が……、」

「……いいえ、諦めません。あと少し、あと少しなんです。こんな中途半端なまま諦めるなんて、できません。」

「リーダー!」

 その決断に、ヨルギたちは一斉にわあっと沸いた。これまでみんなを引っ張ってきてくれたリーダーがそう言うなら、きっとなんとかなるはず。そんな楽観に満ちた希望で食堂内はあふれかえった。反対に眼鏡は、その成り行きに面白くなさそうに顔をゆがめる。

 今度はヨルギたちが勝ち誇ってみせたのも束の間、眼鏡はすぐに財力に裏打ちされた傲慢さを取り戻して言った。

「……ふん。支援金を打ち切られて、いつまでそんなことが言っていられるかな。せいぜい無駄なあがきを続けるがいい。続けられるものならな。」

「横暴!」

「眼鏡!」

「うるさい。文句があるならさっさと田舎に帰れ。」

 まあそのほうがこっちも助かるがな。

 それを捨て台詞に、眼鏡は悠々と後宮を去っていったのだった。ヨルギたちの生活に必要な財力を根こそぎ取り上げて……。

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