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11.お菓子下賜

 どうやらリーダーは眼鏡に「下賜」されることが決定しているらしい。しかし、ヨルギたちには眼鏡がなぜそこまで得意げになっているのかよくわからなかった。控えめなざわめきの空気には、困惑だけが蔓延していた。

「かしって何?」

「お菓子?」

「お菓子されるってどういうこと?」

 あちこちでそんなふうにぼそぼそとささやき合っているのは眼鏡に筒抜けだったようだ。

「バカどもめが。皇帝陛下が臣下に対して、陛下の所有するものをお与えくださるということだ。」

 ふんと腕を組んで、ヨルギたちをさらに見下した態度をとった。

「つまり……どういうこと?」

「陛下が……リーダーをこの男にあげるって言ったってこと?」

「でも、そんなことになったら……。」

 そんなことになったら、リーダーは今後後宮にいられないのでは?みんなが気づかわし気にリーダーをちらりと窺い見る。後宮の少女たちはみんな皇帝のものだということは周知の事実だ。その皇帝自身が、リーダーをこの眼鏡にあげると言った。それの意味するところは、皇帝陛下がリーダーを、彼女ただ一人だけを後宮から追い出したということに他ならない。

「そんな。なぜ、わたくしだけが……。」

 確認していたらしい書類から顔を上げたリーダーは、若干顔を青ざめさせつつも、背筋は伸ばしたままの気丈な態度で眼鏡に相対した。

「ふん。もはや名のある貴族連中のうちで後宮に残っているのはお前だけだ。しかも三年もいて何の成果もあげられていないとなれば、今後嫁の貰い手もなかろうという陛下の寛大なご配慮だろう。」

「なっ、ひどい!」

「リーダーの努力も知らないあんたに、何がわかるっていうの!」

 確かに陛下のご希望には沿えなかったかもしれないけど、並みのロリコンくらいならいくらだって嫁の貰い手はいるくらいリーダーのロリ(りょく)は高いのだ。ロリのロの字も知らないような奴にリーダーを悪く言われたくはない。食ってかかるヨルギたちを、しかしリーダーは冷静に制した。

「いいのです、みなさん。陛下ご自身がそうおっしゃるというのなら、わたくしにはもう望みはないのでしょう。……陛下のご意思に従います。」

「そんな!」

「嫌だよリーダー!こんなところで引退だなんて……!」

 みんながわあっとリーダーに群がって、彼女を中心に幾重にも人垣ができる。その光景は圧巻で、出遅れて一番外側になってしまったヨルギなどリーダーの姿がほとんど見えなかったくらいだ。それだけリーダーは後宮に欠かせない人物だったのだ。

 彼女は引退を惜しんだ少女たちにもみくちゃにされながらもごめんなさいとみんなに謝って、それから、でも、と続けた。

「でもわたくし、諦めないと決めましたから。皆さんと離れてしまっても、一人でも活動は続けてみせます。」

 確かな意思の宿る瞳で彼女はそう宣言した。リーダーは諦めてなどいなかったのだ!たとえエース・オブ・ロリータの称号を得るチャンスを永久に失ったとしても、それでも自分の努力で行けるところまで行ってみたい。そんな強い意志を彼女は示してみせた。まさにロリの女王の名にふさわしい、気高い矜持だった。

「リーダー!」

 少女たちは歓喜した。リーダーの意気込みに感動して人垣じゅうが一人残らず盛り上がったところに、

「やめろ!」

 それを遮るように眼鏡の悲痛じみた無粋な叫びが響きわたる。

「バカか!せっかく後宮から引き離したというのに、このうえ妙な活動を続けるつもりか!」

「でもわたくし、みなさんと約束しましたから。ロリのエースを目指すと。……たとえ、陛下にはお認め頂けなくても。」

 リーダーはゆるぎない瞳をして言った。その強い意志には、ヨルギたち全員が勇気づけられるようだった。眼鏡の妨害に遭おうとも、後宮の要であったリーダーと引き離されることになろうとも。彼女たちの絆と意思は、決して失われることはないのだ。

 真冬の朝のようにぴんと鋭い決意をたたえたヨルギたちを前にして、

「……だから、そもそも、お前は全然、ロリではない。」

 眼鏡はこめかみを押さえた。妨害がことごとくうまくいかない腹いせにか、挙句の果てにリーダーのロリ(りょく)までも貶してくる始末。

「あんたに何がわかるってのよ。」

「ロリコンでもない眼鏡のくせに。」

「ロリの女王に対して失礼よ。」

「ルークス様。お言葉ですが、ロリコンでいらっしゃらない方には少々難しい世界のお話ですわ。」

 いつもは温厚なリーダーすらも気分を害したように眼鏡を見据える。しかしそれに対して、眼鏡は逆にリーダーに食ってかかった。

「だから!それをやめろと言っている。俺の妻となったあかつきには、その妙な活動は一切禁止だ!」

「横暴!」

「ひとでなし!」

「眼鏡!」

 ヨルギたちが口々にわあわあと眼鏡を好き勝手非難しだすと、その騒々しさをかき分けるように眼鏡は両手を大きく振り回した。

「うるさい!こうなるまでに、俺がいったいどれだけ苦労したと……。」

 そこでハッとしたように言葉を切る。

「苦労?」

 ぽつりとオウム返しした誰かの声に、眼鏡は気まずそうな不機嫌さで黙り込む。さっきまでの騒々しさが嘘みたいに、食堂内はしんと静まり返ってしまった。

「そういえばルークス様。いくら陛下の命とはいえ、妻とするのがわたくしなんかでよろしいのですか?」

 素朴な疑問といったようにリーダーがぽつりと漏らす。確かに眼鏡は散々俺はロリコンではないとヨルギたちをバカにしていたにも関わらず、よりにもよってその中でもロリの女王と名高いリーダーを妻とすることになったのだ。きっとあいつはロリコンだという噂が流れるだろう。そんな眼鏡の体面まで気にしてやっているリーダーの優しさに、しかし眼鏡はあからさまに動揺した。

「な……!お前、不満でもあるというのか!」

「ええ、ですからわたくしではなく……、」

「へ、陛下のご厚意を無下にする気か?!」

 リーダーの話などろくに聞いていないに違いないかみ合っていない叫び声をあげて、例の書類を錦の御旗みたいに突きつけてくる。その剣幕に、リーダー以下全員がぽかんとした。どうしてこの眼鏡、こんなにも必死になっているのだ?

 顔を赤くしてハアハアと息を荒げる眼鏡とヨルギたちの間に、しばし沈黙が流れた。

「……っていうかそいつ、リーダーに気があるんじゃないの?」

 ぼそりと呟かれた言葉はその場に即座に浸透していった。

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