1.ロリ帝の後宮
『ACE OF SEAFOOD(エース・オブ・シーフード)』という、海の生き物同士が壮絶なバトルを繰り広げる内容のゲームのタイトルが面白かったため(シーフードって食べられる気満々やんけ)、題名をパクりました。
ゲーム自体も大真面目に作られたバカゲーで、その落差が面白い。この話もそんなシュールさを目指しました。
混乱を経て、ようやく帝国に新しい皇帝が誕生した。彼がその手腕でもって後継者争いに揺れていた国内を安定させると、次は世継ぎの誕生が望まれた。臣下がこぞって進言するも、彼はどんな美人にも有力者の娘にも首を縦に振らなかったようだ。心に決めた人がいるらしい、という噂が一人歩きした。
その後、とある貴族の主導でもって王宮内に後宮が設立される。と同時に、帝国の領土内から似たような雰囲気の乙女たちが集められ、そこに収容されていった。全員黒髪の、少女たちだった。
……あ、そういうシュミなんだ。
新しい皇帝はロリコンだという噂は即座に帝国内に広まった。
かくして、国を挙げて集められた少女たちはロリコン皇帝略してロリ帝のお眼鏡にかなうよう、日々研鑽に励むのだった。
目指すはロリータの中のロリータ、エース・オブ・ロリータ。
・
後宮の朝は朝練から始まる。
「ロリ帝~!」
「ファイッオー!ファイッオー!」
早朝のまだ薄暗い空気の中に少女たちの掛け声と足音が響く。
元気な幼女は体力から。後宮に集められた総勢百名ほどの少女たちは四列ほどに整列して、毎朝後宮の外周を走る。これにより、幼女特有のエネルギッシュさを養うのだ。
ランニングが終わると次は後宮の広い庭へと移動して、ほとんど休む間もなく球技へと移る。ボールを鋭く打ち出す音と、それを受けるバシ、バシ、という音が、いくつものグループに分かれた少女たちの間から絶え間なく響いてくる。
「ほらあっ!そんな球も取れないんじゃ、並みのロリコンは騙せても皇帝陛下はご満足しないわよ!」
「はいっ!」
少しでも失敗すれば、仲間から厳しい叱責が飛ぶ。このトレーニングで反射神経や判断力を養うため、手抜きは許されないのだ。
とはいえ、朝からの激しいトレーニング続きでヨルギはすでにへとへとだった。気持ちに体がついていかないどころか、体に引っ張られて気持ちすら萎えかけている。ぼたぼたと垂れてくる汗をぬぐっているふりをして時間を稼いでいると、そんな怠け心を目ざとく見とがめる者がいた。
「ふん、しょせん『天然ロリ』ではその程度かしらね。」
「!!」
振り向くと、同じく滝のような汗を流しつつもこちらに挑発的な視線を向けてくる少女がいた。「ロリ巨乳」の異名を持つマリアナだ。
ヨルギは後宮内では一番年下であることから「天然ロリ」の名をほしいままにしていたが、それはつまり年齢以外にぱっとするところがないということでもあった。対してマリアナは「ロリ巨乳」の二つ名からもわかる通り、一見ロリとは相容れない要素を抱えつつも、あくまでロリの範囲内にとどまっている。それは彼女の持つロリ力の高さの表れだった。もし彼女がつるぺただったら、間違いなく即座にエース・オブ・ロリータとなっていたであろう――。後宮では常々、そんな話題が恐れと安堵を半分ずつ織り交ぜながら語られているのだった。
「いえ、負けませんよ!」
しかし幸か不幸か、今のところはマリアナ含めまだ誰も突出した存在とはいえない。それゆえヨルギたちはお互いに切磋琢磨しながら、ロリータの頂点となる日を目指して日々研鑽に励んでいるのだ。
ヨルギとマリアナが張り合う姿勢を見せたことで、疲れ切っていたみんなの目にも闘志が戻ってきた。じゃあもうひと踏ん張り――。と、盛り上がりかけた空気に若干のんびりとした声がかかる。
「まあまあ、みなさん。今日はお祝いの日なのだし、ほどほどにしておきましょう。」
「リーダー。」
みんなと同じくぼたぼたと汗を垂らしながらもにっこりと上品に微笑む彼女は「ロリの女王」ことリーダーだ。厳しい訓練を潜り抜けて後宮に残っている唯一の貴族出身で、身分からいえば一番皇帝陛下に近い女。ゆえに自然とリーダーのような扱いを受けており、その二つ名に恥じぬお上品さで皇帝陛下に接する際のマナーなどもみんなに教えてくれている。しかし本人曰く、「みんなが抜けていっていることに気づいていなかった」だけで、決して自分が飛びぬけてロリの才能があるわけではないのだと謙遜する奥ゆかしさも併せ持つ。
そのリーダーの言葉に、みんなぱあっと表情を明るくした。そうなのだ、今日は後宮が設立されてちょうど一周年。厳しい訓練はしばし忘れて、みんなで楽しくお祝いしようという計画なのだった。例外なくヨルギも心待ちにしていた日だったので、リーダーの配慮とは正反対に俄然やる気が湧いてきてしまった。
「よおーっし、マリアナさん、もっとお願いします!パーティーまでに私がロリのエースになってみせまっす!」
急に意気込んだ様子のヨルギにマリアナは一瞬きょとんとしたが、すぐに不敵な笑みを顔に乗せた。
「まあ、生意気。その自信をめっためたにへし折ってやるわよ!」
かくして、エース・オブ・ロリータに最も近いと噂される二人の争いはいっそう激化するのだった。
激しい掛け声と、汗が飛び交う。これが、エース・オブ・ロリータを目指す者たちの日常なのだ。