第33話 仇討ちをする覚悟
前回までのあらすじ
ギギが! ギギがぁぁぁ!!
「あぁぁぁぁ! ギギ! ギギぃぃぃぃぃ!!」
「絹を裂くような」とはこのことか。血で血を洗う殺し合いの場に突如として甲高い悲鳴が響いた。
見れば小さな少女が必死に地面を這いずり回っている。
もちろんそれはリリィだ。彼女は地面に散らばるギギの残骸を必死に拾い集めようとしていたのだ。
わらわらと走り寄り、取り囲もうとする盗賊たち。相手が年端もゆかぬ少女一人にもかかわらず、まったく敵意を隠そうともしない。
するとそこへエリクが割り込んでくる。
「やめろ、リリィ! いまはそんなことをしている場合じゃないだろう!? 逃げるんだ、早く!」
「ギギ! ギギぃぃ!! いやぁぁぁぁぁ!!」
半狂乱のリリィが地面に這いつくばる。幾らエリクが声をかけてもまったく聞き耳を持とうとしない。
それどころか次第にエスカレートしていくその様は、今や完全に常軌を逸していた。
ただのゴーレムではあるけれど、ギギはリリィにとって大切な家族に他ならない。それを突然切り裂かれたのだから、その衝撃は如何ばかりか。
出来ればしばらくそっとしてあげたいところだが、かと言って状況がそれを許さなかった。
見渡せば賊たちが包囲の輪を縮めつつある。このままでは手遅れになりかねない。やむを得ずエリクが無理強いも辞さずと羽交い締めを試みた。
「リリィ! やめろ、やめるんだ! 早く逃げないと逃げ場を失っちまう!」
「ギギ! ギギ!!」
「いいかよく聞け! ギギだってお前が殺されるのを望んじゃいない! 気持ちはわかるが、いまはそんなことをしている場合じゃないんだ!」
「ギギぃぃぃぃ! ギギが、ギギがぁぁぁ!」
「リリィ! しっかりしろ、話を聞くんだ!」
一体どこにそんな力を隠していたのか。
そう思わざるを得ないほどの力でリリィが暴れまわる。見た通りに華奢で非力なはずなのに、このときばかりはエリクでさえ押さえられないほどの膂力を発揮していた。
それでも彼は必死にリリィを押し止めようとする。そしてなにを思ったのか、突然その頬を引っ叩いた。
パァン!
乾いた音が響く。するとリリィの様子が目に見えて変わり始めた。
瞳には理性の色が戻り、ハッとするなり頬を押さえてエリクを凝視する。
頬から伝わるジンジンとした僅かな痛み。決して過度なものではなかったけれど、それはリリィが正気を取り戻すには十分だった。
「エリク……」
「叩いてすまない! だけどこのままじゃ殺されてしまうんだ。すぐに逃げないと!」
やっと話が通じるようになった。その事実にホッと胸を撫で下ろしたのも束の間、すぐにエリクは現実の厳しさを思い知らされる。
見れば周囲はすっかり取り囲まれていた。もはや斬り合いは不可避。しかし多勢に無勢、どうしたって劣勢だった。
しかしそれにはまるでかまうことなく、リリィはキッとばかりに遠くに佇む女を見据える。その頬は必死に怒りを抑えるように小刻みに震えていた。
「あなたが……あなたがギギを殺した……私の大切な家族を……絶対に許さない」
「あらあら、随分と可愛らしい子ねぇ。こんなところにいたら危ないわよぉ? それとも死にたいのかしら?」
「死ぬのは私じゃない、あなた」
「うふふ、随分と豪気な話ねぇ。でも、そういうの嫌いじゃないわよ。――それはそうと、ひょっとしてあなたがあのうさちゃんの飼い主だったのかしら?」
「飼い主じゃなくて家族。ギギは私の家族だった! それをあなたは奪ってしまったの!」
「それはごめんなさいねぇ。でもね、もとはと言えばあなたのせいじゃないかしら? だってその子をけしかけたのは他でもない、あなたなのでしょう?」
「違う! そもそもあなたたちが襲ってこなければ、こんなことにはなっていなかった!」
「ふふん、それは詭弁というものよ。殺し殺される戦場において、弱さこそが罪。いまさら言い訳にすらならないわぁ」
それはまさに正論だった。正論過ぎてぐうの音も出ない。
けれどリリィは関係ないとばかりに言い返す。
「強いとか弱いとか、いまさらどうだっていい! あなたはギギを殺した。私の家族を奪ったの! ならばどうするか。そんなの決まってる!」
「あははは。そう、つまりあなたは、あたしを殺したいわけね。――なら言ってあげる。やれるものならなってみな、とね!」
どう見ても十代前半にしか見えない小柄な少女。彼女を真っ直ぐに見据えながら女が高らかな笑い声を上げる。
周囲を敵に囲まれた圧倒的に不利な状況下にもかかわらず、少女はまるで気にした様子を見せない。燃え盛る炎のような目つきで睨みつけるばかりで、そこに恐れや恐怖といった感情を微量も読み取ることができなかった。
その肩をエリクが激しく揺さぶる。
「リ、リリィ! なにやってんだ! のんびり話している暇なんかないだろう!? 早く逃げないと!」
「もう手遅れ。すっかり囲まれてしまった。どうしたって逃げられない」
「じゃ、じゃあどうするんだよ!」
「こうする!」
言うなりリリィが両手を左右へ突き出す。するとそこから幾筋もの光の束が周囲へと広がっていった。
それは魔法だった。彼女が得意とする魔法矢。それが瞬く間に辺りを席巻すると、取り囲む賊たちを次々に撃ち抜いていく。
ある者は首から上を吹き飛ばされて、またある者は腹に大きな風穴を開けられる。たとえ直撃しなくとも、掠っただけで肉が抉り取られた。
そんな景色が10秒間も続いただろうか。気づけば賊のほとんどが死に絶えていたのだった。
「リ、リリィ……お前……」
「逃げ道は確保した、今なら逃げられる。危ないからエリクは下がって!」
「だ、だけどリリィ! お前を一人にできるわけないだろ! 俺も一緒に戦うよ!」
「見てわからないの!? あの女は魔術師。ここから先は魔法戦になる。巻き添えを食らう前に行って!」
「だ、だけど――」
食い下がるエリク。しかしリリィは厳しい表情とともに突き放そうとする。
「はっきり言う! 邪魔だから離れてほしい! あなたがここにいる限り、自由に魔法を発動できないの!」
「そ、そうか……わかった、すまない……」
見たことがないほどに感情を高ぶらせてリリィが言う。対してエリクが謝罪の言葉を告げようとしていると突然彼女が動き出した。
おもむろに地面へ指を触れたかと思えば、そのまま空へ向かって持ち上げる。するとそこから間髪を入れずに何かがせり出してきた。
それは壁だった。
高さ2メートル、幅1メートル、厚さ10センチほどの土製の壁。それが突然地面から生えてきたかと思うと、飛来した矢を悉く受け止めていたのだ。
もしもあと数秒遅れていたなら、二人とも射抜かれていたに違いない。それほど際どいタイミングに他ならなかった。
論より証拠。その光景を見たエリクは速やかにリリィに賛意を示すと、逃げるように離れていったのだった。
それを見た女――ヴェラが面白そうな顔で言う。
「ねぇお嬢ちゃん。間違いないわ、あなた魔術師でしょう? それも相当な手練れの。――あなた一体何者?」
始めはただの人形遣いなのかと思っていた。
事実あの少女は不気味なぬいぐるみを操るばかりで、自ら戦おうとはしていなかったのだから。
しかし蓋を開けてみれば、どうやらそれは思い込みだったらしい。その証拠に、彼女はあっという間に周囲の賊どもを殺し尽くしてしまった。それも驚くほど正確な攻撃魔法で。
それにはさすがのヴェラも予想を裏切られてしまう。
まさかこんな辺境の地で魔術師に出くわすなんて思ってもいなかったし、なにより未だ少女と呼んでも差し支えないほどの若者に、あれほどの術式を見せられるとは想像だにしていなかった。
ならば多少なりとも怖気づいたのかと問われれば、即座にヴェラは否と答えるだろう。
その証拠に彼女はまるで舌なめずりするような婀娜やかな笑みを湛えていたのだから。
それを見た賊の者たちは、誰一人としてヴェラの勝利を確信しない者はいなかった。
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