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群青と赤紅色のリリィ  作者: 黒井ちくわ
旅の始まり
21/33

第21話 母親のような相方

前回までのあらすじ


エリクたちに近い年齢の冒険者が多数。これはなにか起こりそうな予感。

 その後も滔々(とうとう)と話は続いたものの、ほとんど依頼内容の説明もないまま約10分後にお開きとなった。あとは明日の朝までに各自必要なものを揃えて出発に備える流れだ。

 たかが10分、されど10分。その間ずっと蔑むようなリュックの言葉を浴び続けた冒険者たちは、やっと解放されたとばかりに()()うの体でその場を後にする。


 駆け出しの底辺冒険者とは言え、頭ごなしに(あざけ)られればさすがに言いたいこともあっただろう。しかし相手は依頼主。間違っても口答えなどできるはずもない。

 結局冒険者たちは苦虫を噛み潰したような渋い表情を浮かべただけで、なにひとつ言い返すことなく部屋から出て行ったのだった。


 エリクとリリィもその場を後にする。

 先に出た二組のパーティのうち、『三色団子』と名乗った方の一人がリリィに何か言いたそうにしていた。しかしチラチラと視線を投げてくるだけで結局話しかけてくることはなかった。


 ギルド事務所を出る。

 今日は夜まで天気が良いらしく、視覚に飛び込む日差しの眩しさにエリクが目を細めた。その隣ではリリィも同じような顔をしていた。


 今は午後二時を少し回ったところだ。今日の宿も昨日と同じところなのだが、あんなことがあった後なのでなんとなく帰るのが億劫になってしまう。かといって他に行くところもない二人は、結局のところ部屋に戻るしかなかった。

 昨夜は一睡もしていないエリクは宿屋へ向かう途中に何度もあくびを繰り返し、部屋に入るなりごろりと床へ横になるとそのまま昼寝を決め込んでしまった。


 小さな(いびき)をかいて眠る若き剣士。

 (うるさ)いと思うほどでもない些末な騒音に耳を澄ましながら、ジッとリリィはエリクの寝顔を眺め続ける。それからいつしか自身もベッドの上で眠りに落ちたのだった。



 ◆◆◆◆



 翌朝。

 おかしな時間に昼寝をしたせいで昨夜は夜遅くまで眠れなかったエリクとリリィは、集合時間ギリギリに目を覚まして慌てふためくことになる。

 それでも約束の時間に合わせようと町外れまで駆けていくと、すでにそこには大勢が集まっていた。


 周囲を見渡す。そこには商品を満載した荷馬車が五台に人員輸送用の幌馬車が二台並んでいた。その周りには物々しい装備に身を包んだ強面の男たちが並び、鋭い視線を絶えず周辺へ向ける。

 彼らが噂に聞く傭兵たちなのだろう。一見すると手練れの冒険者のようにも思えるが、醸し出す刹那的な雰囲気と傷だらけの装備は明らかに冒険者とは異なっていた。

 その彼らがリリィに胡乱な顔を向けた。


「おいおい、なんだよガキじゃねぇか! こんな奴が護衛だってか? 一体どこから連れてきやがった? 幾らなんでもそりゃねぇだろうよ!」


「いつから俺たちは子守りになったんだ? まったく勘弁してくんねぇか、おい!」


 聞こえるように暴言を吐き、小馬鹿にした顔を傭兵たちが向けてくる。けれど冒険者たちはなにも言い返せなかった。

 確かに冒険者も荒事には慣れているが、こと戦闘に関しては傭兵のほうが数段上である。特に若い駆け出しである彼らには間違っても逆らえる相手ではない。


 目を合わせたら負けだ。そう言わんばかりに視線を逸らし、顔を俯かせる若き冒険者たち。卑屈な態度を隠そうともしない彼らに向けて、なおも傭兵たちが追い打ちをかける。


「ふん、どうせお前たちは頭数を揃えるために呼ばれただけなんだろ。精々隅っこでおとなしくしていることだな」


「はははっ、そりゃあいい! しかしまぁ、なにもせずに報酬を貰えるなんざ、なかなかいい待遇じゃねぇか! できることなら、俺もあやかりてぇもんだ!」


「ちげぇねぇ! うははははっ!」


「く、くそ……あいつら――」


 指を差し、ゲラゲラと笑い始めた傭兵たち。それらに向けて思わずエリクが言い返しそうになる。けれどその腕を不意に引っ張る者がいた。

 それはリリィだ。彼女は憤るエリクの袖を引きながら小声で言う。


「エリク、我慢して。キレたら彼らの思うつぼ。ここはおとなしくしているべき」


「だ、だけどよリリィ! こんなこと言われて――」


「いいから黙って。まだ旅も始まっていないのに、いきなり揉めるのは悪手。とにかく無視するに限る」

 

「なに言ってんだよ! なにも悪くないのに、いきなり馬鹿にされたんだぜ! それなのに――」


「黙って」


「これが黙っていられるかよ! くそっ、あいつら――」


「エリク! 黙ってと言った。それ以上喋るなら、無理やり魔法で口を塞ぐ。いい?」


 言いながらリリィがエリクの腕を強く引く。いつも平坦な物言いの彼女にしては珍しく、感情の高ぶりが口調に現れていた。気付いたエリクが身を固くする。けれどそれも一瞬、すぐに肩の力を抜いた。


「ふぅ……ごめんよリリィ、悪かった、我慢する。……あいつらを見てると気分が悪いからあっちへ行こうぜ」


 気分を落ち着かせようと大きく息を吐く。それからくるりと背を向けると、エリクはリリィを伴って歩き出したのだった。



 幌馬車の陰まで歩いてくると、やっとそこでエリクは足を止めた。ここなら傭兵たちからは見えないはず。周囲を見渡してどっかりとそこへ腰を下ろした。

 口では我慢すると言ったものの、眉間にしわを寄せた渋い顔を見る限り彼にも色々と言いたいことがあるに違いない。 

 むっつりと口を閉ざし、エリクが機嫌の悪さを隠そうともせずにいると、不意にその頭になにかが乗せられる。怪訝に思って振り向いてみれば、そこにはエリクの頭へ手を伸ばすリリィがいた。

 これまでにないほどの近い距離。直前までの不機嫌さなどどこへやら、思わずエリクがドギマギしていると、知ってか知らずかリリィが小声で告げた。


「さっきはよく我慢した。偉い。このとおり褒めてあげる」


 ニコニコまではいかないけれど、よく見ればリリィが薄い笑みを浮かべていた。まるで幼い子供を(なだ)めるように優しくエリクの頭を撫で続ける。

 一体これはどういう状況なのだろう。瞬間エリクの頭に疑問が浮かんだが、不意に湧き上がってくる感情に戸惑ってしまう。

 

「リ、リリィ……なにをしてるんだ?」


「見てわからない? あなたを褒めている。――短気なのによく我慢した、偉い」

 

「偉いって……お、お前は俺のお袋かよ」


 拗ねるようにエリクが唇を尖らす。その彼の頭を「いい子いい子」するようになおもリリィが手で撫で続けた。


「そうじゃない。だけど、あのままだと間違いなく喧嘩になっていた。私はそれを止めたかっただけ」


「喧嘩上等だ! 俺は絶対に負けねぇからな!」


「やめて。幾らあなたが強くても、傭兵と素手で喧嘩して勝てるわけない。――初見の相手に喧嘩を売って、力でねじ伏せてからのマウント取り。それがあいつらの常套手段。そんなくだらない洗礼に付き合う必要なんてない」


「だけど――」


「いい? あなたが負けたら、ここにいる冒険者全員がマウントを取られてしまう。実態はどうであれ、護衛という立場では傭兵も冒険者も変わらない。それを崩されちゃだめ、わかった?」


 聞き分けのない子供を諭すようなリリィの優しい言葉。見た目も実年齢もエリクより年下であるにもかかわらず、この時だけは妙に大人びて見えた。

 そんな彼女にエリクが答える。その顔には未だ拗ねたような表情が浮かんでいた。


「わかったよ……それが奴らの狙いだというのなら、どんなに煽られようと絶対に喧嘩をしたりしない。約束する。だから……いい加減その手をどかせてくれないか?」


「えっ?」


 頬を染め、恥ずかしそうにエリクが告げる。するとリリィも負けじと顔を真っ赤に染めた。

 男の頭を撫でる。どうやらその行為の恥ずかしさに今さらながらに気づいたらしく、おっとりとした普段の動作からは考えられないほど素早く手を引くと、そのまま顔を俯かせて黙り込んでしまった。


 得も言われぬ微妙な空気。互いにチラチラと眺めながらも決して声を発することができないでいると、不意にそれは聞こえてきた。


「全員揃ったな!? ――それでは出発するぞ、さっさと馬車へ乗れ!」


 男の声を合図にして、一斉に馬車へ乗り込んでいく。その声に救われたように安堵の息を吐きながら、エリクとリリィはやっと動き出したのだった。

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