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群青と赤紅色のリリィ  作者: 黒井ちくわ
旅の始まり
20/33

第20話 若き冒険者たち

前回までのあらすじ


容姿を褒める度に殺されそうになるエリク。実はリリィって、極端なツンデレ……なのか?

 翌朝。

 結局朝まで一睡もできなかったエリクは、寝不足で考えのまとまらない頭のままギルドへ足を運んだ。それから(くだん)の依頼を受ける旨を職員へ伝える。

 なにやらぼーっとした青白い顔の若い剣士と、魔術師のようなローブを纏った小さな少女。見るからに頼りなさそうな二人に向けて、窓口担当者が溜息を吐きながら告げた。


「おいおい、お前たち大丈夫か? 今さら聞くのもなんだが、これが護衛の任務なのはわかっているよな?」


「もちろんわかってる。大丈夫だ、問題ない」


「任せて」


「……まぁいいが。それで、お前がエリク……剣士だな。ランクはD。そしてお前がリリィ。ランクEの……人形遣い? なんだそりゃ?」


 恐らく聞いたことがなかったのだろう。リリィの職種に怪訝な顔を見せながら何度も担当者が登録証を確認する。けれどそれも数舜。すぐに登録証を投げるように返して言った。


「はっきり言っておく。いや、これは忠告と受け取ってくれてかまわんが、DとEのペアには薬草採集がお似合いだ。悪いことは言わん、この依頼はやめておけ」


「ちょっと待ってくれ。この依頼にランクの制限はないはずだ。だから俺達でも受託できるだろう、違うのか?」


「まぁな、確かにお前の言うとおりだ。しかし護衛の任務である以上は常に危険が付き纏う。有事の際には身体を張って依頼主を守らなきゃならんし、逃亡など以ての外だ。――改めて訊くが、他人のために死ぬ覚悟がお前らにはあるのか?」


 ギロリと睨むような視線を担当者が投げてくる。口調は厳しく突き放す勢いだ。

 見たところ彼は、エリクやリリィの父親くらいの年齢らしい。厳つい顔と鍛えられた体躯を見る限り、かつては彼も冒険者だったのだろう。だからこそ二人の行く末を案じているのかもしれない。

 口調こそ乱暴ではあるものの、その端々には子を想う親のような感情が垣間見えた。 

 その彼にエリクが答える。


「大丈夫だ。俺はついこないだまでBランクの奴らとパーティを組んでいたし、ランクこそEだけど、こう見えてこいつはめっちゃ強いから」


 言いながらエリクが指を差す。するとリリィが任せろとばかりに「むふぅー!」と鼻息を吐いた。そんな二人に再び職員が声をかけたのだが、その顔には変わらず心配そうな表情が浮かんでいた。


「ふぅ……結局は自己責任だからな。たとえ死んでも恨み言はなしだ、わかったか? ――出発は明日の朝。午後から依頼主を交えての打ち合わせがあるから、昼飯を食ったらここへ戻ってこい。いいな?」




 数時間後。

 昼食と買い物を適当に済ませたエリクたちが再びギルド事務所へ戻って来る。するとそこにはすでに数人の男女が集まっていた。

 見れば男女二人ずつのパーティが一組と男三人のパーティが一組。いずれも年齢は十代中頃から後半と若く、身に付けている装備が粗末なことからも皆一様に低ランク冒険者であることがわかる。


 そもそもの話なのだが、護衛の任務にもかかわらず、なぜこのような経験不足の者たちばかりが集まっているのか。これではいざという時に役に立たないのではないか。

 などと自分たちを棚に上げてギルド職員へ質問してみれば、依頼主が安い報酬でできるだけ頭数を揃えたかっただけだと答えてくれた。


 幾つもの国を跨いで移動する隊商というものは、自前で護衛を引き連れているのが普通である。それも戦闘を専門とする者たち――傭兵であることがほとんどだ。

 しかし彼らの報酬は高い。たとえ一度も有事にならなかったとしても、彼らには既定の報酬を支払わなければならないのだ。


 なので普段は最低人数の傭兵を引き連れて、国境を越える際など既定の人数を求められる場合に限って臨時の護衛を雇い入れるのが一般的だった。

 もちろんその護衛とは、現地の冒険者たちである。言わば「なんでも屋」のような彼らは、依頼とあらば傭兵紛いのこともやってのける。


 もちろん傭兵とは違って戦闘専門ではない者も多い。それでもそこは冒険者ギルド員、金次第でなんでもやる。

 そこは依頼内容と報酬額の兼ね合いになるが、今回については拘束時間の長さのわりには一人当たりの取り分が少なかった。だから集まって来たのは低ランクの者たちばかりだったのだが、それでも依頼主には気にする様子も見られない。


 結局これは、国境を越えるためだけの頭数集め以上のものではなかった。それがわかっているからこそ、若い連中が率先して受託してきたのだろう。もっともそれはエリクたちも同じだったのだが。


 エリクとリリィが部屋へ入っていくと、まるで合図をしたように一斉に視線が集まってくる。彼らはこの町――ヘルセトに根を張る冒険者たちらしく、この二組のパーティは互いに顔見知りらしい。

 そんな彼らに向かって、いささか芝居がかった声をエリクがかけた。


「よぉ! 俺はエリク、そしてこいつがリリィだ。今回は共同受託案件ということでよろしく頼む」


「あぁ、あんたたちが最後の一組だな。俺たちはここヘルセトで活動しているパーティ『獅子の咆哮』だ。こちらこそよろしく頼む」


「同じく『三色団子』だ。よろしく」


 ギルド員になってからまだ日も浅いのだろう。冒険者にありがちな擦れた様子もあまりなく、どこか希望に満ちた瞳で見つめ返してくる若き冒険者たち。

 それを見たエリクは、己が新人だった頃を思い出す。



 エリクが冒険者になったのは今から二年前、15歳の時だ。色々あって家を飛び出した彼は、生きるためにギルドの門を叩いた。その年齢ならば他にも生きる道はあったはずだが、世界を見て回りたいという幼少からの夢を叶えるために敢えてギルド員になった。

 とは言うものの、全く経験のない新人が一人で生き抜けるほどこの業界は甘くない。そのため若いギルド員は似たような者同士で徒党を組んだりすることが多かった。


 けれど、得てしてそれらの者たちは長生きできない。なぜなら、圧倒的に経験が不足しているからだ。

 最も安易である薬草採集などに精を出しているうちはまだいい。確かに報酬は安いものの、危険とはほとんど無縁なのだから。しかし次のステップ――害獣駆除や簡易な護衛任務に至ると命を落とす者が出始める。


 その点においてエリクは恵まれていたと言えよう。

 右も左もわからない新人の頃にクラウスに拾われた彼は、以来ずっと彼のもとで育てられてきた。経験年数的には未だDランクであるものの、実力はCランクと遜色ないところまで鍛え上げられていたのだ。

 

 目の前の冒険者たちは、自分とそう変わらない年齢のはず。けれど実力的には自分の方が数段上に違いない。

 などと察しながらも、それをエリクは(おくび)にも出さない。するとその前に一人の男が姿を現した。


「ふん、お前らが今回の護衛か。できるだけ安く頭数を揃えてくれと頼んだのは確かだが、よくもまぁ、ここまで頼りないのを集めたものだ。これではまるで学芸会ではないか」


 にやにやと(たち)の悪い笑みを浮かべる、だらしなくでっぷりと太った背の低い男。成金趣味の権化のような(きら)びやかな装飾に身を包み、蔑んだ視線をギルド員たちへ向けてくる。

 その登場に場の空気が凍りついていると、すかさずギルドの担当者が口を挟んだ。


「紹介する。こちらが今回の依頼人であるリュック氏だ。今回お前たちには彼の護衛としてアストゥリアとの国境を越えてもらう。この依頼は万が一にも失敗は許されない。いざという時には己の命を賭してでも依頼の完遂を迫られることもあるだろう。――さて、これから詳細についてリュック氏から説明があるので、全員心して聞くように」

 

 低レベルの冒険者でも事が足りるような簡単な護衛任務だと思っていた。にもかかわらず、妙に重々しく告げるギルド職員。

 その口調に皆は背筋が伸びる思いだったが、エリクとリリィだけは平然としたままだ。いや、正確に言うならひたすらエリクは眠そうだったし、リリィに至っては一体なにを考えているのかわからないような無表情ぶりだったのだが。

 そんな若者たちに向かってリュックが言う。


「はっきり言わせてもらうが、もとより護衛は経験豊富な者たちを揃えている。つまりお前たちは、国境を越えるためだけに集められた捨て駒にすぎん。その辺りを肝に銘じて、くれぐれも勘違いしないよう警告しておく。いいな?」


 直前までの薄笑いはどこへやら、まるで蔑むような表情でリュックが言い捨てる。

 その言葉にギルド員たちは背筋が伸びる想いだったが、ひたすらエリクは眠そうに、リリィに至ってはなにを考えているのかもわからない無表情を貫いていたのだった。

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