第九話 解読せんかい誤解じゃー
保健医に対する胸の高鳴りを抑える事を、修行と受け止めた強。
目標を得て意気揚々と学校へ向かう強に、立ちはだかる影……。
どうぞお楽しみください。
ふぅ、いい朝だ。
やっぱり朝稽古で思いっ切り身体を動かすと、色々もやもやしてたのもすっきりするな!
これならあの女に会っても平常心でいられそうだ!
さー、学校に行くぞ!
「よぉ依谷ぃ……」
服着たゴリラ?
いや、喋ったって事は人間か。
誰だっけこいつ?
「一ヶ月前に僅差で負けた借りを返しにきたぜぇ……!」
あー、先月道端で、肩がぶつかった事で因縁をつけて、カツアゲしようとしてたのをぶっ飛ばしたんだった。
でも僅差って何の事だ?
一撃どころか触れられた覚えもないんだが。
「この俺が女なんかに負けるはずがねぇ! 手加減をしすぎたんだ! だからもう一回勝負だ!」
あ、そーか。
前回は一発で気絶させたから、記憶が曖昧になってるのか。
術の影響もありそうだけど。
じゃあ今度は忘れられないくらいに叩きのめすとするか。
「いいぜ、来いよ」
道の端に鞄を置いて構えると、ゴリラが吠えた。
「あぁ!? 腕をだらんと下げて、やる気あるのかてめぇ!」
これが『朱雀』の構えなんだが。
まぁいいや。説明するのも面倒だ。
「いいからかかって来いって」
「……ぶっ殺す!」
殴りかかってくる拳をかわして、半回転した勢いのまま振った右手が、ゴリラのこめかみを打つ。
「……っ、軽いなぁ! そんなの効きゃあしねぇぞ!?」
当たり前だ。
『朱雀翼棍手』は手数重視の型。
脱力した両腕を多節棍に見立てて、身体の動きによって生まれる遠心力で相手を打つ。
拳、裏拳、肘、腕。
どこからでも攻撃になるので、意識は攻撃をかわす事に集中する。
ま、こいつの攻撃なんて、意識するまでもなく避けられるけど。
「おいおいどうした!? っち! 避けるついでの苦し紛れの攻撃が、ぐっ、精一杯かこらぁ!」
当たる瞬間に力を込めれば、もっとダメージを与えられるが、徹底的にぶちのめすためには数発で終わらせられないからな。
……三十。
……三十五。
……四十。
……四十五。
「ぐっ……! くそがぁ! き、効かねぇぞ! がっ! てめぇ! この! ……あ、当たらねぇ……! ぐがっ!」
五十っと。
よーしこんなもんか。
だいぶ元気もなくなってきたところで、
「がああ!」
「よっと」
大振りの一撃をかわして一回転。
後ろを取ったところで首に腕を巻き付け、腕と身体で首を圧迫する。
「ぐっ……! てめぇ……! 色仕掛けなんかで……、俺を……!」
色仕掛け? 何の事だ?
やり過ぎると骨を折っちまうから、手加減しつつ力を込める。
「……ふひゅう、苦しい、のに、あったか、くて、柔らか、くて、いい、にお、い……。ま、負けて、悔い、な、し……」
落ちたか。
そしたら外して喝を入れてっと。
「ぶはっ!?」
「おー、起きたか」
「お、俺が、負けた……。女に、負けた……」
「じゃーなー」
鞄を拾う俺を、ゴリラが呼び止める。
「え、あ、おい、依谷……! 待ってくれ!」
「何だよ。勝負はついただろ? 次やるならもうちょっと強くなってから来い」
そう言うと、俺は学校へと足を向けた。
しかしゴリラは走って俺の前に回り込む。
「いー加減にしろ。しつこいぞ」
「依谷! 俺はお前に惚れた!」
「何?」
俺の強さが惚れたと言いたくなるほどだったのか。
へー、悪くない気分だな。
「いつかお前に勝てるように強くなる! そしたら……!」
「あぁ、待ってるぜ」
「うおおお!」
何喜んでるんだ?
そんなに再戦の約束が嬉しいのか?
「そ、その時は映画館とか行こうな!」
「公園とかでよくねーか?」
「あ、うん! いいなそれ!」
「後は河川敷とか」
「そ、それもいいな!」
「じゃ、鍛えておけよー」
「わかった!」
元気よく走り去ってくゴリラ。
「……変な奴」
さ、俺は俺で修行に励むぞー!
俺はひと暴れして清々しい気持ちで、学校へと向かった。
読了ありがとうございます。
サブタイトルはパッとなってやった。
だが航海もとい後悔はないです。
一応格闘ものっぽい雰囲気を出してみました。
他の四神の技設定もありますが、果たして出せますかどうか。
次話もよろしくお願いいたします。