第八話 胸が痛いのは修行で鈍感力に極振りしたせいだと思います
保健室で出会った保健医の眼鏡を外す姿を見てから、何故か動悸が止まらない強。
混乱して早退する強に、鳩になった祖父・佐膳が告げる言葉とは……?
どうぞお楽しみください。
うああ、何だこの動悸は……。
適当な事言って学校を出てきたはいいけど、心臓がずっとうるさいくらいに鳴ってる……。
きっとじじいのせいだ!
家に帰ったら締め上げて、術を解かせよう!
そうでなければ焼き鳥にして、隣の犬にでも食わせて……!
『隙だらけじゃぞ強』
「んなぁ!?」
じじいの声が頭の上から!?
そして頭に乗る重み!
捕まえようと手を伸ばすが、鳩になったじじいはひらりと飛んでそれをかわした。
「じじい! 何でこんなとこにいやがる!」
『慣れない女の身で何かやらかさんか、たの……、心配でな。お主を見ておったんじゃ』
「今『楽しみで』って言いかけただろてめー!」
『仕方あるまい。鳩の身ではできる事が限られておるからな。まぁ鳩の身故潜入は容易であったが』
「公園でパンクズでも拾ってろバーカ!」
俺の手をひらりひらりとかわしやがるじじい。
くそ、鳩になってからの方が厄介じゃねーか!
『時に強。お主胸を押さえておったな。女の身体が気に入ったのか?』
「はぁ!? ちげーよ! こんなやわな胸筋、気に入るわけねーだろ!」
『お主……』
「保健室にカバ山運んでから、何か変なんだよ! 呼吸を整えても動悸が治まらない! 術のせいだろこれ!」
『何? そんな効果はないはずじゃが……』
「んなわけねーだろ! 急にこんな動悸が起きるなんて、普通じゃねー!」
『ふむ、そうか……』
するとじじいは、俺の肩に止まりやがった。
くっそー、舐めやがって……!
でも今捕まえようとしても、筋肉の動きを読まれて逃げられる。
隙を見せるまで我慢だ我慢……!
『あの女か?』
「誰の事だ!」
『ほれ、あの保健室の』
「!?」
な、何だこれ!
じじいの言葉で、あの女がふっと眼鏡を外した姿を思い浮かべただけで、心臓がさらに高鳴る!
『ふむ、成程な』
「何だってんだじじい!」
『がなるな馬鹿者。……そうさな、その動悸をあの女の前でも平常に保てるようになったら、術を解く一助になるやもな』
「何ぃ!? 修行か!」
修行ならこっちのもんだ!
この落ち着かない感情を制御する、確かに強くなるために必要な力だな!
そう考えるとわくわくするな!
『では先に帰っておれ。儂は少し調べ物をして帰る』
「おう! 猫に食われたりするなよ!」
『馬鹿め。ライオンでも返り討ちにしてくれるわ』
じじいが飛び去るのを見送って、俺は家へと足を向けた。
まだ動悸は治まらないけど、これが乗り越えるべき修行だとわかれば、何だか楽しい事のように思えてきていた。
読了ありがとうございます。
初恋の相手の前で、平常心を保つ修行。
これには子どもを谷に落とす獅子さんも困惑の様子。
さて、修行バ……、修行にまっすぐな強は、この課題を乗り越えられるのか?
次話もよろしくお願いいたします。