第五話 委員長に愛を尋ねるのは間違っているだろうか
後輩である胡桃梨沙子に愛について尋ねたところ、何やら様子がおかしくなり、熱の有無を確かめる強。
するとそこに風紀委員長の鋭い声が響き渡るのであった。
どうぞお楽しみください。
オオカミ先輩は、長い黒髪をたなびかせながら早歩きで近寄ってくると、
「校内で堂々と不純異性交遊するなんて! やはり不良は不良ね!」
俺にビシッと指を突きつけた。
オオカミ先輩は風紀委員長で、俺が喧嘩をするたびに何かと文句を言ってくる。
まー喧嘩は文句言われるのも仕方ないけど、
「先輩、ふじゅ……、何ちゃらって何の事だ?」
「言い逃れをする気!? 男女が廊下で顔を近付けていたら、どう見ても……、あ、あら? 女同士、だったわね……?」
やっぱり混乱してるな。
ほんとこの術厄介だ。
「俺はリス子に熱がないか調べてただけだ」
「そ、そうです! やましい事なんて、……はぁ、ないんですよね……」
「え、あ、そう、そうよね。女同士でだなんて、そんな、ねぇ……」
俺とリス子の言葉に、こくこくと何回も頷くオオカミ先輩。
よし、納得してもらえたみたいだな。
「ま、まったく! 誤解を招くような行為は慎んでほしいものだわ! 『李下に冠を正さず』と言うでしょう!?」
「理科は苦手科目だな」
「じゃ、じゃあ今度一緒に勉強しましょう先輩!」
「お、サンキューリス子」
「理科の話じゃない! 李の木の下で冠を直すと、李を盗もうとしているように見える事から、『疑われるような事をするな』という中国のことわざよ!」
「へー、さすがオオカミ先輩は頭良いな」
「大谷よ! オ・オ・タ・ニ!」
あぁそうだった。
でも何かキリッとしてて、群れのリーダーみたいだから、オオカミっぽいなーって思うんだよな。
「どうせ性格がキツいからオオカミだなんて呼ぶんでしょ!」
「いや、格好いいなって」
「はきゃっ!?」
誰に何を言われても、俺は世界最強になるために喧嘩を止める気はない。
そうして先生も友達も何も言わなくなっていく中で、俺に喧嘩を止めろと言い続けているのは、じじいを除けばオオカミ先輩だけだ。
その強さは尊敬する。
「そ、そんな、お、おだてたって、指導の手は緩めないから!」
「別におだてたわけじゃない。普段から思ってた事を言っただけだぜ」
「ふ、普段から、そ、そんな風に思ってたの……。へ、へぇ……」
何だ? 急にオオカミ先輩が大人しくなったな。
そうだ、今ならオオカミ先輩に愛の事を聞けそうだ。
きっと詳しいだろう。何せ頭良いからな。
「なぁオオカミ先輩」
「お、大谷よ……。で、何?」
「聞きたい事があるんだけど」
「わ、私でわかる事なら答えてあげるわ」
「愛って何なのか教えてくれないか?」
「ぺきゅっ!?」
あれ? やっぱり変な声出した。
松本もリス子もそうだったけど、みんな何で愛について聞くと変な反応になるんだ?
「せ、先輩! 私だけじゃなくて大谷先輩とも愛を営むつもりなんですか!?」
「な! 胡桃さんにもそんな事を!? 女なら誰でも良いってわけね! けだもの!」
え、何でこんなに怒られるんだ?
俺そんな悪い事言ってるかな?
理由がわからない上に二対一じゃ分が悪い。
お! 授業のチャイムだ! 助かった!
「悪い! またな!」
「あ! 逃げないでください先輩!」
「依谷! 次に会ったらたっぷり指導してやる!」
二人の怒声を背中に受けながら、俺は教室へと駆け戻った。
読了ありがとうございます。
大谷果穂子……風紀委員長を務める三年生。規律に厳しく、校則破りを見逃さない。一部の生徒からは煙たがられているが、その凛とした姿と物言いにはファンも多い。
強に対しては不良を更生させるという強い意志だけで関わっていたが、今回強の本音に触れた事で若干見る目が変わっている。しかし喧嘩は許さない。
次話もよろしくお願いいたします。