第三話 愛、しってます?
怪しい術で女体化した上に、周囲の認識も上書きされている高校生・強。
一刻も早く愛を知って術を解除しようとするが……?
どうぞお楽しみください。
さーてと。
教室に着いたところで、授業が始まる前にまずはあいつらに聞いてみるか。
「よお」
「え、あ、よ、依谷……。お、おはよ……」
「あ?」
何だ松本の奴、目を逸らしやがって。
俺に何かやましい事でもあるのか?
「おい」
「ぴゃっ!? ち、近……!」
肩組んだだけでこの態度。
やっぱり何かあるんだな?
「何隠してんだ松本、なあ?」
「か、隠してなんか、ないです……」
「急に敬語になって、どう見ても何か隠してるだろ。言えよ。俺とお前の仲じゃねーか」
「う……」
目を逸らしておどおどする松本。
ここまで言っても言わねーって事は、結構大事な秘密なんだな。
なら無理強いしても仕方ねーか。
「まーいいや。じゃあ別件で一つ聞きてーんだけど」
「な、何だ?」
「愛ってやつを教えてほしーんだ」
「はぎゃらばっ!?」
な、何だ!?
いつもの松本に戻ったかと思ったら、いきなり椅子から飛び上がって三回捻りして床に落ちたぞ!?
「おい松本! 大丈夫か!?」
「……よ、依谷……。俺と、お前は、親友、だな……?」
「そ、そうだ! 何だ改まって!?」
「……そう、親友、だから、俺は、その問いに、応え、られない……」
「は!? 何でだよ!」
「……情けない、さくらんぼ野郎だと、笑って、く、れ……」
がくりと首を落とす松本。
何の小芝居だこいつ!
「何言ってんだかわかんねーよ! おい!」
「……いや、あの、あんまりゆさゆさされると、たわわな果実も揺れて、その、ここは天国で地獄……」
「だから何を言って……」
「そこまでです!」
何だ今度は!
竹本に、梅本?
何で泣いてんだ?
「……松本は、松本は! 昨日まで親友だと思っていた依谷に、急に女らしさを感じてしまい! 戸惑っているのです!」
「さりとて依谷をいやらしい気持ちで見たくない! でも男の本能が責め立てる! そんな中愛だの何だのと言われたら! もう死ぬしかないのです!」
あ、そーか。
こいつら昨日までの男として付き合ってた関係が、術で女って上書きされたから戸惑ってるのか。
男でも女でも俺は俺なんだから、関係ねーと思うけどな。
そんな事を考えていると、竹本と梅本が松本を担ぎ上げる。
「……依谷」
「何だ松本」
「……俺は必ず男の本能を克服し、お前と親友に戻る……!」
「あ、あぁ、よろしく頼む」
よくわからない雰囲気で教室から出て行く三人を見送って、俺はこの術の厄介さを改めて感じた。
こりゃ早いところ術を解かねーとな。
男の本能がどーとか言ってたから、次聞く奴は女にするのが良さそうだ。
読了ありがとうございます。
松本、竹本、梅本の三人は、よく強とつるんでいたので、ショックもひとしおです。
着替えのシーンとか、プールに行った時の思い出とか、いい感じに改変されている事でしょう。
……えげつねぇな。
次話もよろしくお願いいたします。