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第二十一話 はてのある物語

相対すると何故か動悸を覚える保険医・桂木かつらぎ弥生やよいと休みのお出かけをする事になった強子きょうこ

その浮き立つ思いを武術に打ち込むが……?


どうぞお楽しみください。

「うおおおおおお! はっ! ふっ! おりゃあ!」

『どうしたきょう、いや、今は強子きょうこと呼ぶべきか』


 道場で稽古をしていると、鳩の姿のじじいが俺の肩にとまった。


「何だよじじい。自主稽古には口出さねーんじゃなかったのか?」


 いつもの稽古は終わったんだから好きにやらせてほしい。


『朱雀から青龍、とどめに白虎の連撃などしておったら、口の一つも挟みたくなるわ。一体誰に使うつもりじゃ? まともに決まれば相手を殺しかねんぞ?』

「いや、身体動かしてねーと落ち着かなくて……」


 今度の休み、つまり明日、弥生やよい先生と出かける事になった!

 そう思い返すたびに、じっとしていられなくなる!

 あー! もう一セットやるか!?


『それ程強い相手と会うたのか?』

「そーじゃなくてよ。明日弥生先生と出かける事になってさ」

『弥生先生?』

「じじいが平静を保てって言った、保健医の先生だよ」

『……その先生、姓は桂木かつらぎか?』

「え? あぁ、そーだけど、何だよじじい、知ってんのか?」

『知ってるも何も、ほれ、三丁目の整骨院の娘さんじゃ』

「え?」


 そ、そーだったのか!?

 ご近所さんじゃねーか……!


『息子に後を譲り、お前の学校で保険医をしておった先代が腰を痛めたと聞いておったが、成程孫娘がその穴を埋めておったのか』

「あー、これまで弥生先生を学校で見た事ねーなと思ったのはそれでかー」


 そーか。あの妖怪みたいなばーさんは、弥生先生のおばーさんだったんだな。


『ふむ、それなら明日は修行の最後の機会になるやも知れぬな』

「は? な、何だよ最後の機会って……」

『先代の腰がそろそろ治ると聞いておるのでな。弥生先生とやらもまもなく学校を去る事になるであろう』

「……え……」

『故に強子よ。弥生先生の前で平静を保ち、愛を知る機会、逃すでないぞ?』

「……おう……」


 浮き立つ気持ちはもうなかった。

 足元がなくなったよーな、気持ちの悪い不安感が俺の胸を占めていく……。


「じじい! 金貸してくれ!」

『何じゃ藪から棒に』

「俺、これからも会えると思ってたから、明日の事何も考えてなかった! でも近いうちに会えなくなるなら、昼飯ひるめしとか夕飯ゆうめしとかで一緒にいる時間を増やしたい!」

『そのためには金が要る、と』

「そうだ」

『よかろう。じゃが只という訳にはいかんな』

「……条件は、何だ?」


 無理な条件だったら、じじいを叩きのめして金を出させるしかないな……。


『三分以内に儂に一撃当てて見せよ。さすれば金を出してやろう』

「へへっ、望むところだ!」


 わかりやすい条件だ。

 一撃と言わず、ぼこぼこにしてやる!


『では行くぞ』


 !

 床を蹴ったじじいが、反射的にかわした顔の横をかすめていった……!

 は、速ぇ……!

 鳩の身体であの勢いだと、ほとんど弾丸だな!

 まともに食らったらやばい!


『ふっ!』


 壁を蹴ってまた一撃!

 ぎりぎりかわせはしたが、反撃を撃つ余裕がない!

 また床を蹴って、上!? 天井か!


『ほう、これもかわすか』


 そう言うとじじいは再び床を蹴る!

 壁に、天井に、床に、縦横無尽に跳ね回るじじい!

 くそっ! 鳩になってからの方が強いって何だよ!


『さて、そろそろ一分』


 まずい! 時間制限もあるんだ!

 だが下手に手を出して外したら、次の攻撃をかわせない!

 一発食らったら、多分立て直せない!

 でもこのままじゃ……。

 !


『む、空気が変わったな』


 じじいはそう呟くと、跳ね回るのをやめた。

 じっと俺の構えを見ている。


『お主は玄武の型は好まぬはずじゃが、今ここで決められると思うのか?』

「……好きじゃねーけどできねーわけじゃねー。やってみせるさ!」


 『玄武げんぶ甲盾躰こうじゅんたい』は攻性防御の型。

 相手の攻撃を肘や膝で受ける事で、防御と同時に攻撃を行う。

 じじいの動きは直線的だ。

 速くてもかわせるレベル。

 合わせられないほどじゃない!

 

『では試してみるか』


 じじいが突進の体勢を取る。

 だがじじいなら、俺が合わせをしくじるとは思ってないだろう。

 つまりフェイントを入れてくるはず。

 その瞬間に白虎の型に切り替えてぶん殴る!


『かっ!』


 来た!

 肘と膝を前に出した半身の姿勢のまま、じじいの動きに集中する!

 よし! 羽根を広げた!

 減速したところに掌底を!


『読めておる』


 そ、そのままの勢いで天井に!?

 くそっ! 掌底を空振りした体勢じゃ、次の攻撃は避けられない!

 ……嫌だ!

 弥生先生との時間が減るなんて、嫌だ!


「うおおお!」

『むっ』


 天井から突撃してくるじじいに額を突き出す!

 衝撃!

 でも手応えがない!

 体勢を切り替えて、足で衝撃を受け止められた……!


『ふむ、額を使って玄武甲盾躰を放つとはな。咄嗟の判断としては悪くない』

「くそっ、まだだ! まだ時間はある!」

『まだやるのか?』

「当たり前だ! ここで諦めてたまるか!」

『金は出してやるのにか?』

「えっ?」


 な、何で!?

 有効打を当てられなかったのに!?


『玄武の型の本質は、後の先にある。攻め気ばかりのお主が、きちんと使いこなした事に、師として満足を覚えた』

「じじい……」

『それに儂とて孫に丸腰で逢引に行けとは言えん。仏壇に置いてある白い封筒に三万入っておる。持ってゆけ』

「あ、ありがとうじじい!」

『……お主がそこまで儂に素直に謝意を示すとはな。この術も存外意味があったようだの』


 じじいが何か感慨にふけってるけど、俺は弥生先生と出かけるための金が第一だ!

 仏壇に行くと、あった! 中を確認すると、うわ、本当に一万円札が三枚も!


『……まったくお主は……。だが、その想いこそお主に最も必要なもの。存分に味わって来い』

「あぁ!」

『そして玄武の型のことわりを忘れるなよ』

「え?」


 玄武の型の理?

 後の先?

 攻性防御?

 別に弥生先生と戦う気はないんだけど……。


『……あのな、相手は成人で、仕事もしておる。対してお主は高校生じゃ』

「あぁ、そうだな」

『そんなお主が、儂から貰った金で支払うなどと言うと、無用の軋轢を生みかねん』

「そう、なのか……?」


 じじいの言う事はよくわからないが、弥生先生を嫌な気持ちにさせる事はしたくない。


『そこで玄武の型の応用じゃ。相手に先手を渡しながら、受けに回っていると見せて必要な時にこちらの手を見せる。それがお主の修行のかなめと知れ』

「おう! わかった!」

『……本当に大丈夫かの……?』


 じじいから金をもらって、俺のもやもやは晴れた!

 あー、早く明日にならねーかなー!

読了ありがとうございます。


鳩とのガチバトルとか誰得感が否めませんが、これで玄武の型も出せたんだから良しとするって事でさ……

許してくれ


次話もよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 先生とのデートの為に、好きではない技を使いこなして見せる、正しく愛ですね! 戦いの瞬間だけ、ハトの目がまるでタカのような目になっていたのではないでしょうか。 [一言] おじいさんが強く感…
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