第十六話 俺の名は。
ウサ子こと宇佐美朝子に、武術の訓練に役立つと丸め込まれ、女物の服を着た強。
翌日そのままの格好で学校に行こうとするが……?
どうぞお楽しみください。
朝稽古を終えて、シャワーを浴びて汗を流す。
この西洋サラシ、本当に動きやすくていいな!
試作品とはいえ十枚ももらえて、本当に助かった。
さて制服を着て、と。
『強』
「何だじじい。肩に乗るのやめろよ」
俺を女にする術の反動で鳩になったじじいが、俺の肩に勝手に乗る。
『視線を合わせるために羽ばたき続けながら喋るのは、少々難儀なのでな』
「自業自得だろ。嫌ならとっとと術を解け」
『お主が愛を知り、これまでの行いを改めるのなら、な』
「けっ。で、何の用だよ」
『お主のその格好だ』
「ん? 何か変か?」
制服のワイシャツに、ウサ子のポイントでもらったスカートとスパッツ。
ウサ子に言われた通りに着てるから、問題ねーと思うんだけど。
『女の服を着る事に抵抗はないのか?』
「あー、全くないわけじゃねーけど、昨日の白虎の型のキレを考えると、他の技にも良い影響が出そうだからな。色々試してみたい」
『それは良いが、お主が男に戻った際、その服装の記憶も引き継がれるぞ?』
「あ、そっか。それはちょっとやだな」
俺を女にした術は、周りの人間の認識にも影響するらしい。
だから周りの奴らは俺が元々女だった、という認識に変わっていた。
そして少し混乱はあっても、男だった時の俺との記憶と、俺が女だという認識が両立していた。
つまり今までの俺は『男の格好をしている女』として見られている。
逆に言えば、俺がこの格好をした記憶を持ってる奴は、術が解けた時に、男の俺がスカートを履いてたって記憶に変わるわけだ。
「……うーん、でも技の修行のためだから仕方ねーかな……」
『お主……。ならば名を変えよ』
「名を?」
『うむ。今の身体に合わせた名を付ければ、元に戻った時の記憶の引き継ぎを一部取り除く事ができる。直接話したり触れたりした内容は難しいが、服装の認識くらいは消せよう』
「お、それいいな!」
この身体でも修行はしたいし、元に戻った後に服の事忘れてくれるなら万事解決だな!
『今の名と変えすぎると不便であろうから、強子と名乗るが良い』
「わかった」
よし、今日から俺は、依谷強子だ。
ま、とっとと愛とかいうのを理解して、術を解かせるまでの間だけだがな。
「んじゃ朝飯にすっか!」
『うむ』
俺は鳩じじいを肩に乗せて、居間へと向かった。
読了ありがとうございます。
これで依谷強子の完成……!
男の精神のまま、服装と名前を女に変える……。
「何よりも『困難』で………
『FA』なくしては近づけない道のりだった………
次話もよろしくお願いいたします。