第十一話 誰も見てはならぬ
保健室で保健医・桂木弥生に声をかけられ、動揺を新たにする強。
クラスに戻って授業を受けても、その動揺は治まらず……?
どうぞお楽しみください。
あー、一限目が終わっても、変な動悸が治まらない。
この身体になってから変な事は多いけど、何で弥生先生の時だけこんな気分になるんだろう……。
「……弥生先生」
口に出すと何かくすぐったい!
……でも何だか嬉しい。
あー! 何か意味もなく暴れてー!
朝のゴリラみてーに、誰か喧嘩ふっかけてこねーかなー!
「……あの、よ、依谷さん……」
「ん?」
声に顔を上げると、同じクラスの、えーっと、そうだ、ウサ子だ。
何か顔赤いけどどうしたんだ?
「……あの、その、それ、う、浮いちゃってるから、何かで隠した方が……」
「浮いてる?」
ウサ子が指差したのは俺の胸。
浮いてるって、あぁ、これか。
「……あ、あの、依谷さん、ブラとかしてないの……?」
「ブラ?」
「……ぶ、ブラジャーの事……」
「そんなのするわけないだろ」
「だ、駄目だよ! 男の子も見てるんだよ!?」
そう言われても、ゴリ沢だっていつもタンクトップの下で浮いてるじゃないか。
女の身体だと何か違うのか?
「と、とりあえずこれで……」
ウサ子が取り出したのは、包帯だった。
これをサラシみたいに胸に巻けって言うのか?
正直面倒だと思うけど、普段大人しいウサ子がここまで真剣に言うなら大事な事なのだろう。
「……これを胸に巻けばいいんだな?」
「う、うん、と、特に先っぽが隠れるように……」
「わかった。じゃあ」
ワイシャツのボタンに指をかけると、ウサ子がいきなり俺の手を掴んだ。
何だ急に!?
「こ、ここで脱いじゃ駄目! トイレとか更衣室とか、人に見られないところで!」
「わ、わかった。ちょっと行ってくる」
ウサ子の勢いに、俺は思わず頷いた。
大人しい奴だと思ってたのに、意外と力強いんだな。
とりあえず階段の踊り場でさっと巻いちまおう。
ワイシャツとTシャツを脱いで、と。
「ちょっ、そ、そんなところで何を……!?」
読了ありがとうございます。
宇佐美朝子……強のクラスメイトであり、引っ込み思案で臆病。しかし性格は親切で、落とし物や明らかな失敗など、その場で何とか出来そうな事には反射的に動いてしまう。
君はヒーローになれる!
さて、踊り場で服を脱いだ強は誰に見つかってしまったのか……。
次話は月曜に更新予定です。
よろしくお願いいたします。