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    SH部入ります③

「もしかして新入部員の方ですか?」


 私と信濃川さんが銃を見ていると、背後から声がかかる。

 

 振り返ると、高校指定のジャージを着たボブの女の子が立っている。背はそこまで高くないけどスラリとした体付きで、運動神経が良さそうな人だった。


「その、まだ入部は決めていないんですが、スポーツシューティングに少しだけ興味がありまして、是非どんな部活か見てみたいなと思いまして」


「私は信濃川さんに付いてきた感じで、入部するかは決めてないんだ」


「そうだったんですか......それでお名前は?」


 私と信濃川さんはクラスと名前を伝えるだけの軽い自己紹介をする。


 そうすると、ボブの女の子も私達に続くように「自分は一年三組の種島由加って言います」と自己紹介をして軽く頭を下げた。


「それで、スポーツシューティング部はどのような活動をなさっているのでしょうか?」


 そう信濃川さんが尋ねると、種島さんは少し申し訳なさそうにして答える。


「それが......この部活は昨日に設立申請を出したばかりで、まだ正式に部活を設立すら出来ていないんですよね」


 私は、だから体育館にブースがなかったのかと納得する。


「それに、この学校って部員の人数が少ないと、部活ではなく同好会判定になるので、今のままでは部活動としてSHに取り組めるかも怪しい状況なんです」


 種島さんはそう言って“はぁ”と溜め息を付いた。


「あの、部員が集まらないのは、スポーツシューティングに興味のある女子生徒が少ないからなのでしょうか?」


「それも理由のひとつだとは思いますけど、一番の理由はこの学校にSH部が存在していることを知らない生徒が多いことだと思います」


 私も信濃川さんにポスターを見せられるまで、この学校にスポーツシューティング部が有ることを知らなかった。

 私と同じ様に部活の存在を知らない生徒が居ても不思議ではない。


「一応スポーツシューティング部の宣伝ポスターも何枚か貼ったんですが、そのうちの一枚剥がされてしまったりしたんですよね......」


 私はそっと信濃川さんの方を見る。

 信濃川さんは普段と変わらない様子で「そうなんですか、それは災難でしたね」と相打ちをしているが、どことなく目が泳いでいる。


     ◇


「由加はん、申請書の下書き持っとる? なんや手続きに必要らしいねんけどウチは持ってへんのや......」


 廊下から慌ただしい足音が聞こえてきたかと思えば、化学準備室ドアが勢いよく開らかれ、ショートヘアの快活な女の子が顔を出しす。


「それなら持っています......はい、これです」


「おーきに」


 種島さんは背負っていたリュックサックからプリントを取り出すと、その女の子に手渡した。

 関西弁の女の子はそのプリントを受け取ると「ほな」と言って走り去っていく。


「あの、今の方は?」


「自分と一緒にSH部を立ち上げてくれた平坂さんで、色々と申請の手続きとかを手伝って貰ってるんですよ。本来は部長である自分の仕事なんですが、書類関係の仕事がどうも苦手で......」


 と種島さんは申し訳無さそうに話す。


「それよりも折角部室まで足を運んでくれたんですから、SHの体験でもしてみますか?」


 種島さんは話題を変えるようにそう言うと、机の上に置いてあるダンボールから、先ほど私たちが見ていたハンドガンを取り出す。


「色々と説明したいのは山々ですが、まずは撃ってみますか」


 そう言いながら種島は、試験管などが並ぶ化学準備室の棚に置いてあったビニール袋から、弾丸とガスボンベのような物を取り出す。


 そして「ここが取れるんですよ」と言いながら弾丸と薬莢を指で引っ張って切り離す。弾頭はプラスティックとスポンジで出来た玩具みたいな見た目だけど、薬莢はしっかりとした金属で作られている。


「仕組みは実銃とほぼ同じですが、火薬ではなく可燃性ガスを使うんですよ。まずはこうして弾頭と薬莢を組み合わせて......この穴からガスを入れれば弾薬が完成です」


 その後も同じような作業をして、何個か弾薬を作る。


「あとはマガジンに弾薬を詰めてリロードすれば撃てる状態になるのですが......その前にこれを着けてください」

 

 種島さんは私と信濃川さんにゴーグルを差し出す。


 スポーツシューティングで使われる銃の威力は法律の範囲内で決められた数値はあるものの、目に当たれば失明する危険がある。

 そんな事を説明しながら種島さんは、ハンドガンからマガジンを引き抜いて弾薬を籠める。


「はい、これで準備は完了です。どちらが先に撃ちますか?」


 元からスポーツシューティングに興味があった信濃川さんに先を譲る。


 ハンドガンで狙うのは、教室の端に置かれた少し大きめの消しゴムで信濃川さんからは大体4mぐらい離れている。

 

 簡単ではあるけど、信濃川さんは種島さんから照準の合わせ方を教わってハンドガンを構えて消しゴムを狙う。


「では、撃ちますね......」


 信濃川さんはそう宣言すると、少し目を細めて慎重に的を狙う。


「うわっ」


 信濃川さんがハンドガンの引き金を引くと“バンッ”とかなり大きい銃声が鳴る。それと同時にハンドガンの銃口でマズルフラッシュが光った。


「消しゴムには当たってませんが、かなり近い場所に飛んでいきましたね」


「そうだったんですね......わたくし銃を撃った瞬間に驚いて目を閉じてしまって、的を見てなかったんですよ」


「初心者さんあるあるですね、まぁ慣れれば大丈夫になる人が多いですよ」


 信濃川さんの言う通り、銃声やマズルフラッシュも充分に凄かったけど、撃った瞬間にハンドガンを持つ信濃川さんの手が上に跳ね上がった事が印象的だった。

 ただ驚いて、咄嗟に銃を上げたような動きには見えなかったので、反動によって腕が上に持っていかれたんだとは思うけど......


「稔さんも撃ちますか?」


 信濃川さんは、それから何発か撃った後、私の番が来る。


「う、うん」


 ハンドガンを受け取ると、私はなんとなくでは有るけど、正しいと思う姿勢で銃を構えてみる。持ってみた感じは意外と重くて手が微かに震える。

 それのせいでフロントサイトとリアサイトが上手に合わせられない。


 息を整えて腕の動きを落ち着かせて......いまっ


「なっ」


 引き金を引いた瞬間に、撃った反動でハンドガンが上の方に持ち上がる。咄嗟に力を込めて握ったから良かったけど、気を抜いてたら手からハンドガンが飛んでいくところだった。


「凄いですよ若葉さん、最初なのにしっかり消しゴムに当たってます」


 何故か信濃川さんが私よりも嬉しそうにしている。


「それにしても反動強いね......腕が上に持っていかれたよ」


「まぁGlock29ってコンパクトハンドガンなので結構反動が強く感じられますが、フルサイズのハンドガンや長物ならもう少し反動がマイルドになりますよ」


「たしかにこの銃って、サイズが小さい割に銃弾が10mmAutoだもんね」


「稔さん詳しいですね、もしかしてGlockファンだったり?」


「いやそうじゃなくて、前にプレイしてたゲームでGlock系の銃が沢山登場してたから、それのせいで覚えちゃったんだよね......」


「もしかして、CODModern Strikeですか?」


「そう、CODMD。あ、あと私は一発の威力の高い20とか29よりも、連射力の高い18のほうが使ってて楽しいから好きなんだよね」


「確かに一分間に1200発の連射力は魅力的ですもんね」


「そうなんだよ! 頭に丁度良くエイムが合うとすぐに溶けるから」


 そう種島さんと話していると、頬をわざとらしく膨らませた信濃川さんが、私と種島さんを見ながら


「わたくしを放って、おふたりだけで盛り上がるなんて......疎外感と言いますか、おふたりが羨ましいですわたくしも混ざりたいです」


 と言って拗ねてしまった。



 なんとか信濃川さんの機嫌を取ろうとしていると、生徒の下校時間を知らせるチャイムが鳴る。


 種島さんは設立申請の書類にサインするとかなんとかで学校にまだ残る必要がるらしく、私と拗ねた信濃川さんのふたりで帰ることになった。

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