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    SH部入ります②

 その日の放課後。

 

 学校の体育館はどんな部活に入ろうか悩む新入生と、なんとか新入部員を確保したい上級生達でとても混雑している。

 入学する前から「この高校の部活は他と比べても盛んだ」とは聞いていたけど、ここまで盛り上がっているとは正直思わなかった。


「結構人多いね......」


「ただ部活動を紹介するだけの会場なのかと思っていましたが、どうやら違ったようですね」


 体育館の中は各部活がそれぞれの“ブース”を用意して、詳しい活動内容や部の雰囲気なんかを紹介しているらしい。

 なんか企業の合同説明会みたいな雰囲気だ。


「それにしても信濃川さんがスポーツシューティングに興味あるなんてちょっと意外だったな。文化系の部活に入るのかと思ってた」


「兄の友人がスポーツシューティングを嗜んでいて、話には聞いていたんです」


「じゃあこの学校に入学したのはスポーツシューティングをする為なの?」


「いえ違います。入学してから偶然このポスターを見つけて、スポーツシューティング部が有るなんて思ってもいなかったので、驚いたんですよ」


 私と信濃川さんは『女子運動系部活コーナー』と書かれた場所へ行く。


 文字通り多くの女子運動系部活のブースが並んでいて、女子バスケットボール部や女子バレーボール等のメジャーな部活から、女子アーチェリー部などの珍しいものも並んでいる。


「ねぇねぇテニスに興味ない?」


「サッカーの体験してみたら結構面白いけど」


「その身長ならバドミントン強いと思うんだけど」


 それぞれのブースの前を通る度に、上級生から声を掛けられる。

 どうやら私達以外の新入生も被害に遭っているようで、明確な意思を示さないと強引にブースの中まで連れて行かれてしまう。


「なんか熱気が凄いね......」


「部活数が多いですからどこの部活も新入生を渇望なさっているのでしょうね」



「おっそこの美人さん男バスのマネージャーとか興味ない?」


「わたくしマネージャーになるつもりはないので......」


「大丈夫だから。力仕事もあんまりないし、それに君美人だからさ」


 顔立ちが良いからなのか、誘いの声がかかるのは大抵信濃川さんで私ではない。

 歩く度に声を掛けられて断りの返事を、困ったような顔でしている信濃川さんを少しだけ正直少し羨ましく思う。


「コラッ女子コーナーでマネージャーの募集は禁止でしょ?」

「あっ樋口先生......」


 信濃川さんに声を掛けてきたバスケ部の部員が、赤いジャージを着た体育科の先生に腕を引っ張られながら、コーナーの外へと連れ出される。

 連行されながら、去り際に「まってるからぁ」と何度も叫んでいた。


 その様子がマヌケで、当の本人である信濃川さんは恥ずかしそうに顔を下に向けていたけど、私は声を出して笑ってしまった。


     ◇


「スポーツシューティング部見当たりませんね......」

「看板もキャッチも見つからないね」


 色々なキャッチに声を掛けられたり、パンフレットを渡されたりしたけど未だに肝心のスポーツシューティング部を見つけることが出来ていなかった。

 もしかして文化系......な訳ないか。


「そういえば、そのポスターどこで貰ったの?」


「二階の掲示板に貼ってあった物なんですが」


「えっじゃあ勝手に剥がしてきちゃったの?」


 信濃川さんは、私が何に驚いているのかをイマイチ理解できていないようで「取ってはいけない物だったのでしょうか?」などととぼけたことを言っている。


「......まぁいいや、そのポスターに活動場所とか書いてないの?」


「えっと四階の化学準備室とは書いてあったんですが、てっきり勧誘会にブースが有るものだと思って......若葉さんには無駄足を運ばせてしまいました」


 そう言って信濃川さんは私に頭を下げる。


「良いよ別に、無駄足って言ったってほんの少しだけだし。部室行こう」



 私と信濃川さんは勧誘会場の体育館を出て階段を登り、スポーツシューティング部の部室がある四階を目指す。

 階段からかなり奥の方に進むと目当ての『化学準備室』に到着する。


「誰も居ませんね......部屋を間違えたんでしょうか?」


 何度かドアをノックしても返事がなかったので「失礼します」と声を出しながらドアを開ける。鍵などは掛かっておらず簡単に開いた。


 しかし部屋の中には誰も居なくて、本当にここが部室なのか心配になる。


「あっ若葉さんこれ見てください、スポーツシューティングに使用する銃が」


 準備室の中央に置かれた机の上に置いてあった段ボール箱の中には二丁の拳銃と畳まれたTシャツが入っている。

 信濃川さんは「これを試合では撃つんですね」と小さく呟いて手に取った。


「わたくしスポーツシューティング用に限らず、直接銃を見るのは初めてで......こんな感じなのですね思っていたよりもかなり重たいです」


 信濃川さんは熱心にハンドガンを眺めている。その様子はまるで買った貰った新しい玩具を期待の眼差しで見ている子供のようだった。


「あっ危ない」


 信濃川さんが銃口を覗き込もうとしたので、私は思わず信濃川さんからハンドガンを取り上げた。

 チャンバーを確認してみると、幸い銃弾は装填されていなかったが、念の為マガジンを外して残弾がないことを確認してから信濃川さんにハンドガンを返す。


「ごめんなさい、わたくし夢中になっていて」


「慣れてないと銃口の管理とかって出来ないよね。まぁ最初は意識しないと出来ないかもしれないけど、使ってくうちに出来るようになると思うよ」


 FFのあるゲームだったら銃口管理を怠ると重大なプレミに繋がってしまうので、無意識のうちに気をつけるようになってしまっていた。

 こうゆうのを職業病っていうのだろうか?


「それと若葉さん、なんか銃の扱いに慣れていませんか?」


「そうかな? そんな事ないとは思うけど......」


「でも、今の動きとかかなりスムーズでしたよ迷いがないと言いますか......」


 多分日頃からFPSをプレイしているせいで無意識のうちにリロードモーションなどを覚えてしまったのだんだと思けど、今までに銃を持ったことがなかったのに、すんなりと体が動いてしまった事に私自身も驚いている。


「もしかすれば、その様なゲームをプレイされている若葉さんであればスポーツシューティングも楽しめるのではないですか?」


「まぁそうかもしれないけど......」


 信濃川さんはそう言うけど、実際に駆け回って銃を撃つのとコントローラーを使ってゲーム上で遊ぶのはぜんぜん違う。

 そもそも体力がないからリアルでは全然動けないしチームの足手纏になりそう。


「でもまぁ興味がないわけじゃないけど......」

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