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    模擬戦②

「あら若葉さん」


 角から飛び出した私は信濃川さんと向かい合う形になる。信濃川さんは花咲さんと話していたため銃口が床に向けられていて戦う準備ができていない。


 私はサイトを覗き込み信濃川さんに合わせる。


 信濃川さんは咄嗟の事に驚きながらも、被弾しないように向けられた銃口から逃げようと、体を屈めつつSVDを私に向けて構える。


 動く信濃川さんをしっかりとサイト内に収めて引き金を引く。


「......いまっ」


 私がAKを発砲したとほぼ同時にSVDのマズルが光り、AKとは比べ物にならない雷みたな銃声が廊下に響く。

 信濃川さんの射撃はインスティンクト射撃で、私を狙いきれていない状態だった為銃弾は私の体から大きくハズレて後ろの壁に着弾する。


 私が撃った弾は、最初の跳ね上がりが抑えきれず信濃川さんの頭上にそれる。しかし四発目以降はなんとか踏ん張って反動を抑えられた。


 やっと反動に慣れてきたあたりで、もう一度SVDのマズルが光り私の方に銃弾が飛んでくる。

 

 今度はサイトを覗いて私をしっかり狙った為か、さっきみたいに大きく外れることはなく、私の肩に命中し腕時計から被弾を知らせる音が鳴る。


「いっ......」


 マガジンに入っていた弾が半分ぐらいになった時、信濃川さんの腕時計から体力がゼロに鳴った事を知らせるビープ音が鳴った。


「はぁ負けてしまいました......1発は命中させる事が出来たのですが」


 床に座り込んだ信濃川さんは少し溜息を付きながら悔しそうに言った。

 

 腕時計を見ると残りHPのは160になっていた。SVDは大口径弾を使うので普通のARやSMGよりも一発あたりのダメージが大きい。

 腕に被弾したから良いけど体に当たってたら致命傷になってたかもしれない。


「若葉さん頑張ってくださいね」


「ファイトー」


 信濃川さんと花咲さんに応援されながら、次の戦いに向かう。

 私が信濃川さんと戦闘している最中、一発ではあったけど講義室の中から銃声がしたような気がするので、もしかしたら今も誰かが潜んでるかもしれない。



    ◇



「......誰も居ない?」


 講義室に入ったものの机と椅子が並ぶだけで、誰も居なかった。銃声は確かに講義室の中から聞こえたような気がするんだけど。


 気の所為だったのか、銃声を鳴らした主が既に教室から抜け出したのかはわからないけど相手が何処にいるのかがわからない以上警戒をしておく必要がある。


「この近くで鉢合わせそうなのは」


 頭の中で地図を思い描いて、相手がいそうな場所に検討をつけてみる。私が通ったルートを追いかけられて居なければ、多分普通教室のどれかに潜んでるはず。


「......?」


 そんなことを考えていると、講義室の前の方から小さい音だったけど“カラン”と薬莢が硬い床に落ちる音が響いた。

 講義室は机と椅子が並ぶただの広い部屋で隠れられそうな場所は殆どない。ただひとつ有るとすれば、それは黒板の前に置かれた大きな教卓の裏。


 いつ頭を出して発砲してくるのか予想できないので、机に身を隠しつつ教卓にずっと狙いを定め続けて突然の顔出しに備える。


「そこだっ」


 教卓に隠れていた誰かが立ち上がり、私に銃口を向ける。教卓の裏から姿を表した人は平坂さんで手にはハンドガンが握られている。

 平坂さんの武器はスナイパーライフルで、至近距離戦がじゃなり不利になってしまう為平坂さんだけサブウェポンのXDMを持って良いことになっている。


 既に顔出しに備えて教卓へ銃口を向けていた私は、素早くドットを飛び出してきた人の頭に合わせて引き金を......


『ビィ――――――ッ』


「え?」


 私がAKを発砲する直前、何処からか“パンッ”と乾いた銃声が一発聞こえて来たかと思えば、平坂さんの腕時計から例のビープ音が鳴る。


 咄嗟に銃声が鳴った方向を見ると、講義室のドアから顔を覗かせるような形で陽向先輩が平坂さんに向かってリボルバーの照準を合わせていた。


「って......やばっ」


 そんな陽向先輩は平坂さんのキルを確認すると、すぐさま私の方にその銃口を向けて間髪入れずに発砲してくる。

 私はなんとか近くの机の裏に隠れて銃弾を避ける。


「こっからどうしよう」


 私が机の裏に隠れる姿は陽向先輩に見られてしまっている。

 恐らくこの机にエイムを置いて、私が顔を出したり体を晒したりすれば、いつでも攻撃できるように準備してるに違いない。


 顔を出したりしなければ、陽向先輩に撃たれる心配はないけど試合を長引かせることに繋がる。

 陽向先輩はスポーツシューティングの経験があるので、戦いが長くなればなるほど有利に事を進められてしまう可能性がある。


「取り敢えず置きエイムをどうにかするか」


 私は腕だけ出して陽向先輩が居るであろう方向にAKを乱射する。


 そして被弾を恐れて陽向先輩が少し身を引いたところで、今隠れていた机から飛び出して位置的に有利な少し奥の机へと移動する。


 ブラインドファイヤをしたお陰で移動先は見られていないはずだから、エイムを置かれていたさっきよりもマジな状況と言える。

 それに陽向先輩が“講義室と廊下を隔てる壁の裏”に居ることはわかっているので、位置把握の観点で言えば私が有利な状況だ。


 陽向先輩が私を攻撃しようとするには、さっきみたいに講義室の中を覗くか講義室の中に突入してくるかの二択しかない。

 とは言え私が持っている銃はAKで陽向先輩の銃はリボルバー、火力の差は大きくわざわざリスクの有る突入を選ぶとは思えない。


 ......だからどちらかのドアから顔をだして来る筈なので、今度は私がドアにエイムを置いておけばかなり有利に戦える。


「きたっ」


 廊下を走る足音が聞こえる。私を撹乱してふたつあるドアのうち、どちらから顔を出すのかを迷わせる作戦なのかもしれない。

 しかし動揺せずにしっかりと足音を聞いて、どちらのドアから顔を出すのか予測すれば良いだけ。


「ここっ」


 タイミングもエイムもすべてが完璧だった。


 予想に反して陽向先輩は教室に突入してきたけど、赤いドットはスライディングで飛び出してきた陽向先輩を狂いなくしっかり捕らえていた。

 なんの躊躇いもなく引き金を引き、陽向先輩にAKの......




『ビィ――――――ッ』



 額に銃弾が当たるのと、私の腕時計からビープ音がなるタイミングはほぼ同時だった。スライディング飛び出してきた陽向先輩の右腕には、銃口をまっすぐ私に向けたリボルバーが握られていた。


 少しの間があった後、陽向先輩は安堵の溜息を付いてリボルバーのシリンダーを開き中に入っていた薬莢を床に落とした。


 “カラン”と心地の良い金属音で私は我に返り、AKのマガジンを抜いてコッキングレバーを引っ張りチャンバー内の銃弾を排出する。


「えっと」


「穂ちゃん結構動きよくて驚いたよ。気を抜いてたら負けてたかも」


 そう陽向先輩が言うと、ポケットの中に入っていたスマホが振るえメッセージが表示される。

 

 送り主は種島さんで模擬戦が終わったことを知らせる物だった。


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