白無垢
学校からの帰り道、いつも通る公園の前にあるバス停にある古いベンチに長い髪をした女の人がちょこんと座っていて僕は目を離せなくなった。
今日は豪雨と言っても良いくらいの雨なのに傘もささずにびしょ濡れになっていたし、何よりも今まで見た事ないような着物を着ていたからだ。
「お姉ちゃん……あの……」
人見知りの僕には珍しく声をかけてみた。
長い黒髪が張り付いた蒼白い顔が僕を見る。
女の人だと思っていたが顔を見ると小学生の僕より少し年上くらいだろうか。
着物を着ていたからてっきり大人の女の人かと思ったが、歳が近そうだとわかり少し緊張が解けた。
「風邪ひいちゃうよ?」
「大丈夫よ。あなたこそ早く帰らないと風邪ひいちゃうんじゃないの?」
そして、ありがとうと微笑んだ後、彼女は音も無く消えてしまった。
何が起こったのか、小学生の僕の頭では理解が追いつかずそこに暫く立ち尽くし、そして、傘を打ち付ける雨の音に我に返った僕はいつもより早足で家に帰った。
真っ白な着物を着た消えた女の子。
両親にこの話をしても馬鹿にされそうだから言わなかった。