死闘の果てに
心理描写多めの一人称となります。
オレは後悔などしていない。
この判断は現状から考えれば最適だろう。
追い詰められたオレは、ヤツとの激しい戦いで勝利を手にしている。
結果からみてもオレの判断は正しかった。
しかし、この密室でヤツの後処理をどうするか立ち往生している。
道具があれば簡単に済むが、見渡した限り、オレが欲しい道具はない。
これは誤算だった。
あくまでオレはヤツとの戦いでの決着に固執していた事もあり、重要なモノを見逃していた。
だが、あの状況下ではオレのような人間は確実にこの場所を選択するはずだ。
オレは落ち着いている。頭も冴えている。
だからヤツの後処理を冷静かつ迅速に行わなければならない。
なぜなら、オレには時間がない。
残り一時間を切っている。
急いでヤツの後処理をしなければ、オレは取り返しのつかない状況に陥る。
何よりこのまま放置すれば、オレ自身にも危険が及ぶ。
それだけは避けたい。
ならば、外から使えそうな道具を探すか。
見つかるリスクは高くなる。万が一、見つかった場合、死闘を繰り広げたオレに余力はない。
考えるより行動だ。
オレがドアノブに手を差し伸べた瞬間、
「どこにいる?」
外から声が聞こえた。
これはマズイ。咄嗟にオレは息を潜める。
「ああ、わかった」
どうやら男は電話をしているようだ。
ここに用があるのか。それともオレの存在がバレてしまったのか。
「誰かいるのか?」
男の問いにオレは答えない。
当然だ。答えるはずがない。
「ちっ、開かない」
男が激しくドアノブを開けようとするが、オレは必死に抑える。
このドアが開いてしまえば一巻の終わりだ。
男の雰囲気から察するに若い上に短気。余力のない今のオレでは対処が難しい。
「ふざけんな」
男がドアに蹴りを入れて八つ当たりする。
それでもオレは息を潜めてやり過ごす。
オレは存在を消すのが得意だ。
背後に忍び寄っても誰も気付かない。
その才能に恵まれたオレだからこそできる芸当だ。
男が立ち去っていく足音を確認する。
オレはしばしの安堵を得る。
だが、そうは言っていられない。
時間は刻々と過ぎていく。
残り50分程度しかない。
もう外で道具を探す余裕はないか。
オレは自分の両手に視線を落とした。
両親からもらったこの両手を使うしかないか。
唯一の救いは水が溜まったタンクがある。
俺は冷静に手を洗い、ヤツの後処理を始めた。
さすがに初手を繰り出すまで多少の躊躇があっけど、始まってしまえばこっちのモノだ。
オレは巧みに手を使ってヤツの後処理を素早くこなしていく。
そして、残り10分のところでオレは完了した。
我ながら手早い仕事に笑みを浮かべてしまう。
だが、もう時間は残り少ない。
オレは行くべき場所へ気持ちを切り替えようと頭の中でシミュレートを始めた。
ここでオレは致命的なミスを犯した。
「あっ」
思わずオレは反射的に呟いた。
気が抜けてしまったせいか、オレはギリギリの戦いで得た勝利をこうも簡単に落とすなんて予想もしていなかった。
「嗚呼・・・終わった・・・」
オレはその場で脱力した。
それに呼応して、オレの肛門は腹に残っていたヤツらをすべてぶちまけた。