1-A
俺は今一度気を引き締めてドアを開ける
「おはよう、俺は今日からこのクラスの担任をすることになった白銀空也だ。よろしく頼むよ」
生徒全員ちゃんと席に座っていた。
俺は右から左に目を配り全員の顔と名前そして席の位置を把握した。
その中には皇女様はもちろん見たことのある顔が一つあった。
「あっ、貴方ここの先生だったの!」
「先程はどうも、おかげで助かったよ」
「セラさん、時間はとってありますので質問は後でお願いします」
席から跳ねるように立ち上がり何かを言おうとしていたが、理事長に止められて何も言えずにそのまま席に着いた。
さすが帝国に住む魔術師の憧れの人だな。
この学校に来たってことは少なからず理事長を尊敬してるはず。さっきの言動から見ても相当気は強そうだが、理事長には勝てないらしい。
「でば、私から皆さんに連絡があります。空也先生には座学全般と武術の授業を担当してもらいます。私は本来ダレス先生にやってもらうはずだった副任と魔術の担当をやらせてもらいます」
まさかとは思ったが理事長本人が副任をやるとは、資料では代わりを用意するとしか書いてなかったからな。
「空也先生はここに来る前は軍に所属していて、軍内でも優秀という話をよく聞いていたので、この度特別推薦でここの学院に来てもらうことになりました」
俺が優秀って一体誰に聞いたんだか、軍なんて1度も来たことないだろうに。
「ですが、空也先生は魔術が使えません、それが今まで推薦候補止まりだった理由です」
「一応言っておくけど、別に魔力が無いわけじゃないから、むしろ君達よりは多い方だと思う。一応生活魔術は使えるからね。ただ出力が0か100にしか出来ないから初級以上の魔術が使え無いだけ」
生活魔術とは自身の魔力ではなく大気中の魔力を使う魔術の事だ。
だからこそコソコソと生徒達が、「今どき魔術も使えないとか無能じゃん」等と馬鹿にしてくる。それもそうだ、初級以上という事はほぼ全ての魔術が使えないのだから。
「理事長先生もう我慢できません、何でダレス先生を辞めさせてこんな無能をこの学院に入れたんですか。魔術が使えないなんて魔術学院において不要な存在じゃないですか、それに」
「黙りなさい、空也先生は」
随分と痛いところを突いてくるな。魔術学院に魔術が使えない人はいらないか、全くもってその通りだな。
セラとダレス先生の間に何があったかは知らないが逆の立場なら俺もそう言っている。と思っていると理事長が無理やり黙らせたので俺は理事長の言葉を静止させ、
「えーっと、赴任して早々にあまり生徒に嫌われる事を言いたくは無いんだけど、俺にもメンツがあるから言わせてもらうね」
少しセラを睨むように、
「ダレス先生がどんなに優秀だったかは知らないし知る気もないけど、何で俺がそいつより弱いってことになってるの?」
「それは、今どき魔術も使えないなんて才能のない証拠じゃないですか」
別に怒ってる訳じゃないが表情を少し強ばらせ、
「いや、正直俺に才能がないのは認めるよ。ただ、それでも俺はダレスより優秀だ。」
「なっ!魔術も使えないのに何を偉そうに」
「俺は人生のほとんどを強くなる事に費やしてきたんだ、それをたかだか魔術が使えないなんてちっぽけな理由で俺の人生を否定するなよ」
別に怒ってはいない。
だが、この学院の卒業生の8割は軍隊に所属している。
もしこいつらがその8割に入るなら今のうちの上下関係の正しさを教えなくてはならない。
軍では上官が黒と言ったらそれがたとえどんな色であっても黒と認識しなければならない。
「ならこうしよう、今は第1修練場が空いてるからそこで俺と立ち合おうじゃないか」
「なんでそんなことする必要があるんですか」
当然のごとくセラは言い返す。
「なんでって俺は無能なんだろ、それを証明してみろよ。因みに参加者はお前ら全員な」
「なんで俺らまで戦わなくちゃならないんだよ、セラだけでいいだろ」
「大丈夫ちゃんと褒美はあるから、ってかまだ入学して1ヶ月しか経ってないからって、このクラスには友情みたいなものは無いのかよ」
これからこのクラスを担当すると思うと、むしろこっちから辞めたくなるな。
「ほらとっとと移動しろ、来なくてもいいけど来ないやつは退学な」
「職権乱用ですよ、そもそも新任のあなたにそんな権限あるわけが」
「あるよ。さっきからなんでやら何かと反抗してるけどさ、俺はお前逹を強くするためにここにきたんだからやる気ないなら帰れよ」
すると1人残らず怯えた子犬のようになった。
おー、面白いな。
ちょっと怒った反応するとこれだよ、一応名目だけは皇女の監視権護衛なんだから嫌われたら元も子もない。
「5分以内に来ること、じゃあ先に行くから」
俺は教室を後にして直ぐに第1修練場に向かった。
果たして何人来るか、予想だと全員来ると思うけど10人もいるなら1人くらい辞めてくれればいいのに。
てかほんとに当たるとは、何となくこうなるかもって思って手袋持ってきて正解だったな。念には念を入れとかないと常に絶対じゃないといけないからな。
「さてと準備運動でもしておくか」
到着までにかかった時間は約1分、それから2分後ぐらいに全員が各々の武器を持って修練場に現れた。
「来たかそれじゃあ簡単にルールの説明な」
ルールという言葉に反応したのか、「ふざけるんじゃない」と言わんばかりにがんを飛ばしてくる。
「フィールドはこの第1修練場のみで、そっちの勝利条件は俺に一撃を入れること、そしたら終了。俺の勝利条件は一限終了まで一撃も喰らわないこと簡単だろ」
「それで俺たちにご褒美ってのは?」
「そうだな、俺に一撃を入れた生徒にはこの学院の卒業資格をやるよ、更に俺がダレス元先生に土下座して戻ってくるように頼むよ、更に更に俺は無能だったってことでこの学園を辞める。これでどうだ」
半分くらいの生徒がおぉー!と喜んでいる。
「そんなことしていいんですか?」
理事長は心配そうに耳打ちして聞いてくるが、俺は「大丈夫ですよ」と答える
「だがもし一撃も入れられずに終わったら、俺をこの学院の1-Aの担任として認め今後このことに関して文句を言わない事」
生徒は当然だよなと納得して少しずつ戦闘の準備を始めた。
「言い忘れてたけど一撃ってのは俺に傷を付けることだから、服に傷をつけたりしてもノーカウントだからな。それと卒業資格は最初に当てた1人だけで譲渡は無しな」
生徒たちは口々に文句を言ってくるがそんなの知らんとばかりに俺は精神を集中し始めた。
「相談の時間5分やるからお前らの1ヶ月の決断力を見せろよな」
「俺が一撃入れる」「いや俺だ」等といった会話が聞こえてくる。
そこは陣形とか戦術を話せよ、まぁ俺には関係ないけど。
そして俺は気を高めていく。
気とは体内エネルギーを使用して使える身体強化法の1つだ、だが気を使えるものはこのご時世良くて片手居るかぐらいだ。単純に魔力で身体強化した方が楽だし何より一朝一夕で手に入るものでは無い。気のメリットは才能の有無関係なく誰でも使える事だが、魔力と違って時間と共に増える訳では無い。人間の一生を100年としてその殆どの時間を費やしても良くて腕しか強化できない。
しかも毎回気を練るところから始めないと質が落ちるから大変だ。
だが使える様になれば魔力より質の高い強化ができる。
俺は人の数十倍は生きてるから全身を強化した上でそれを長時間キープできる位の量はある。
つまり、魔力が無くても戦える。
「最後にひとつ言い忘れたてた、俺からは攻撃しないから。牽制や軽い反撃はさせてもらうけどね」
「それは私達を侮辱してるんですか」
鬼気迫る表情で威圧してくる。
こえーなー、何もそこまで怒らなくても。
「今回の立ち合いはお前ら全員の実力を見させてもらうテストだから、言っておくけど褒美狙いじゃなくて単位を狙いに来た方がいいよ」
「それは自分は負けないという宣言ですか」
「そうだな」
「絶対に吠え面かかせてやる」
良いね、さっきとは違って少しは気迫がみなぎってきたかな。
「それじゃあ始めるか、理事長合図をお願いします」
「はぁー、分かりました。それではこれより1-Aの先生と生徒の立ち合いを始めます」
「両者始め」