神再び
『···ーい』
『おーい』
うるさいな、何だ?
『やっと起きたか』
「その声はらいじ・・・ん?誰だお前」
そこには数日前に現れた威厳たっぷりの雷神ではなく、なんかこう凄くゆる~い感じのやつがいた。
『本体の一部を切り離して創ったんだ、凄いだろ』
雷神は胸を張ってふん!と鼻息を荒立てた
『何だこの姿に見惚れちまったか、なるべく人間に好かれやすい格好になったつもりなんだがな』
「確かに好かれやすくはなったと思うがその分威厳や風格は影も形も無くなったけどな」
こんな会話してる場合じゃない。
「雷神お前のせいで全身が痛みで動かせないんだがどうしてくれる」
雷神は首をかしげて、
『いや、お前動けるだろ』
はぁ?と思いながら腕を動かそうとすると、
「痛みが来ない」
『そりゃそうだ、そもそも何で痛みが襲うんだ?』
『お前は俺達神だけが使える神威とサービスでくれてやった俺の雷を受け止められるだけの器があったはずだ』
「こっちが聞きたい、そもそも器ってなんだよ!勝手に神なんかにしやがって」
『安心しな、お前はまだ神じゃないからな』
「はぁ?」
『お前はまだ神になるには少し未熟だからな、今はまだ半神って所だ』
「結局なんなんだよ、いきなり神になれとか言っておきながらまだ神じゃないって、流石にそろそろキレるぞ」
流石に苛立ちを抑えられなかった
『だからそれを説明しに来たんだ』
『こっちの世界にもお前と同じ存在がいるんだよ、まぁそいつは神じゃなくて天使だけどな』
『で、お前にはそいつの元に行ってもらおうかなと思ってさ、そいつの方が俺たちの世界についても色々詳しいし運のいい事に学校の理事長してるから教師にでもなってもらおうかと』
「神になることと教師になることのどこに共通点があるんだよ」
『お前には神になるにおいて足りないところが幾つかあってだな、その一環として学校の教師になるのが丁度良いからだ』
『勿論手っ取り早いのもあるが、それはお前が絶対に受け入れないからな』
「なんだよ言ってみろよ」
自分の都合を押し付けてきた神が初めてこちらの事を考えたような発言だった。
流石にどんな内容か気になるな。
『ソレイユ=フィーの正体が白銀空也だってばらす事だ』
「却下だ」
『知ってるよ、こっちはお前の事を少しは調べてきたんだからな』
「大体なんで学校の教師になったり招待をばらさなきゃならないんだ?」
教師になることと正体をばらす事に一切の共通性を感じない、一体こいつは何を考えているんだ。
『お前にはな、民から尊敬されるって事が足りない』
「はぁ?」
『神はな、民の皆から崇拝され崇められる存在でないとダメなんだ』
『人間同士で崇拝というのは難しいだろうからまだ尊敬で済ませてやってるんだ』
『教師にでもなれば自然と尊敬もされるだろう』
「何でそうなるんだよ」
『教師といえば尊敬される者じゃないのか?』
「そんなのはごく一部の教師だけだ、大体の教師は尊敬とはかけ離れた存在だよ、てか神様のくせに何でそんなことも知らないんだよ」
『神だってなんでも知ってるわけじゃない、特に俺なんかは基本的に人間に興味はない』
おぉ、こいつ言い切りやがった、神なのに興味ないです宣言かよ。
『まぁとにかくお前にはな取り敢えず教師になってもらう、期限はだいたい3年くらいだ、ダメそうなら伸ばすし良さそうなら縮めるから』
「どうせ拒否権はないんだろ」
もう疲れましたと言わんばかりの返答をすると、
『当たり前たろ』
よし、こいつの本体にあったら1発殴ろう、そう固く決心した。
当たり前のように会話が進んでいるが俺はふと疑問に思ったことを口にした。
「でもさ、その理事長さんの説得はそっちに任せるとしても、陛下を納得させられるような理由とか教員免許を俺は持ってないぞ」
俺は今の軍役に就くまでは極力に静かにひっそりと暮らして来た訳だから当然教員免許等持ってるわけが無い。
『そこは大丈夫だ、既に手回ししてある』
へぇー、さっきまでダメなやつのイメージしか無かったのにやる時はやるんだな。
『順番に説明して行くとな、天使はその役職にもよるが殆どが神に仕える者だから基本的には神に逆らえないんだよ、よって神の権利をフルに使って押し通した』
「おいっ!」
ダメだやっぱこいつただのクズだ、言ってることなただの職権乱用じゃねーか
『まぁ落ち着け話が進まん』
「誰のせいだよ」
何かもう呆れてきた
『次にお前の教員免許の事だが、その学校には教師用の推薦制度が有ってな理事長と皇帝の2人が了承したら期限付きで教師に慣れるそうだ』
ん?陛下が関与してる学校って帝国に5つしかないはずだぞ、まさかそのうちの一つとか言わないよな。
「ちなみに聞きたいんだけどその理事長の名前って?」
『マナリア=リューズだ、なんだ知ってるのか?』
「知ってるも何も帝国最高峰の国立アルバード魔術学院だろ」
予想が当たる所か超えてきたよ
確かにマナリア=リューズといえば相当な魔術の使い手で陛下曰く帝国でも三本に入るって言ってたような、天使に選ばれるのも納得だ。
「そこまでは納得出来たが陛下についてはどうする気だ?」
『皇帝の娘いたろ、そいつがその学校に入学したらしいからな、知ってたか?』
「もちろん知ってるさ、一応警備として参加してたからな」
『それで皇帝が娘に身辺警護を付けようとしたらしいんだが断られてな、顔が割れてなくて尚且つ実力があるやつをこっそり派遣しようとしてるんだよ』
『それにお前がなれ』
「無理に決まってんだろ、実力は良いとしても俺より優秀なやつくらいいるだろ」
『なんでお前はそう自分を卑下するんだ、お前ほど顔が割れてなくて強いやつは帝国と言えど一人もいないから安心しな』
『それに知り合いの神に頼んで軽い暗示かけたから安心しな』
「安心できねーよ、それにテスタにはなんて言うんだよ、あいつも今日来るんだぞ」
雷神は誰だ?と言った顔をして、少しして思い出したのか、
『そいつは今日来ねーよ、そいつが来る時間の1時間前にトラブルが起こるようになってるから』
「は?トラブルってなんだよ」
『帝国から少し離れたところに俺のペットを放ったからな、あいつは強いぞ』
『なんてったって神である俺が本気を出しても屈服させるのに3分もかかったんだからな』
フンッと鼻息を鳴らして謎の自慢をしてきた。
『あっ!因みに名前は雷雷丸だ』
「いや知らねーよ、それにそいつがどれだけ危険だとしてもテスタならすぐに解決すると思うぞ」
『それは大丈夫だ、雷雷丸魔術効かないし、触れれば生命力奪われるから人間じゃ1ミリたりとも動かせねーよ』
「いや、テスタで解決できないならそれこそ世界の危機だろ、むしろ俺が行かなくちゃ行けなくなる」
『そこは安心しろ、俺が行くまで1歩も動くなと言ってあるから』
「わかった、とりあえずは信用するが1人でも殺してみろ、お前の本体を殺してやる」
にっこりと殺意を込めた笑みを向けるとさすがの雷神もお、おうと気圧された。
『そろそろ皇帝が来る時間か、まぁ何かあったらフォローするから』
「まて、お前は何処に行くつもりだよ」
『何処って、ここに居るがそれがどうかしたか?』
「どうかしたかって、陛下に見られたらどうするつもりだ」
『大丈夫だ、この姿は神か天使の力でも持たない限り見えないようになってるからな』
『まぁその分力は使えないし一切物事に干渉できないけどな』
「なら良いがいざとなったらフォロー頼むぞ」
『おお、頼りにしてな』
~5分後~
コンコンとドアを叩く音が聞こえた。
「空也さん起きてますか~、入りますよ~」
如月院長が病室を訪ねてきた。
「どうかしましたか?」
「陛下がお見えになったのでお通ししても良いですか~?」
「えぇ、お願いします」
それから3分くらいして院長が再び部屋のドアをノックした。