追求
「入りますよ~」
「失礼するぞ」
ナースと一緒に陛下が部屋に入ってきた。
皇帝と言うに相応しい威厳ある礼服を着て現れたのがアンクール=オード=アルバート皇帝陛下だ。
「こんな格好ですみません陛下」
体を動かそうとすると激痛が走るので、寝転びながら応対するしかないのだが、流石に失礼に当たるので心苦しい。
「よい、気にするな」
陛下はナースの出した椅子に腰をかけながら応対した
「今お茶出しますね〜」
「いや、お茶はいいから少し席を外してもらえるか、如月院長」
へぇーあのナースが院長だったんだー、⋯⋯あれが院長!
嘘だろ、あんなのほほんとした人が院長だと!
確かこの病院の院長って相当な凄腕って聞いてたけど、人は見かけによらないんだな。
再認識しておこう
「分かりました~、けどまだ起きたばっかりなので長くても10分位までですよ~」
「では~、失礼します~」
そう言うと、ナース元い如月院長は部屋から出ていった。
「陛下1つ伺いたいんですけど、あの人ほんとにここの院長なんですか?」
「そうだが、何だ知らなかったのか」
「それと、いつもの喋り方にして貰えないか、この喋り方だと息苦しくてな」
「それに儂からしたら、信頼出来るおじさんって感じだからな」
「アルがそれでいいなら、ただおじさんは止めてくれ」
皇帝家とは数代前からの付き合いだし、現皇帝の出産に立ち会うくらいの仲だからお互いあまり口調は気にしないようにしている。
俺に至っては名前が長いからアンクールをアルに縮めているしな。
だけど、俺と陛下が交流があることを知っている人はそんなに居ないから、公の場とかだといつも敬語になるから、そのせいで少し敬語が抜けきらないところはある。
「時間もないし単刀直入に聞くがあれは何だ?」
「一応今の所は戦争を勝利で終わらせた英雄となってはいるが、あれを近くで見てた者からは先日まで説明しろとお仕掛けてきた者もいるくらいだ」
「こちらとしても説明出来ないから少々強引に黙らせている始末だ」
「それは⋯⋯」
神から力を貰ったことを言うべきなのか?
力を貰ってから意識を失うまでに神に一言だけ言われたからな。
━力の事はなるべく人間には言うな━
神を信じるべきなのかそれとも人間を信じるべきか。
悩んでいると突然部屋のドアが開けられて黒髪の青年が入ってきた
「空也目が覚めたのか!」
「来るとは思っていたけど流石に早すぎだろ」
「空也が目覚めたのに駆けつけない訳には行かないだろ」
「ははっ、流石だな」
俺が起きてからは少し時間が経ってるとはいえ、ナース元い如月院長が来てからまだ10分位しか経ってないはず、それを考えると流石としかいいようがない。
白銀テスタは、俺が発足させた陛下直属の部隊Aysの隊長兼司令且つ軍の司令も担当しているので役職だけなら俺の上司にあたる存在だ。
ただ、元々奴隷で俺が才能を買って条件付きで解放したのだが、上司になった今でも最大限の敬意を表している、現にこうしてすぐに来てくれてるわけだし。
「で調子はどうなんだ?」
「体が痛むくらいだ、心配しなくても大丈夫だぞ」
「3日間も寝たきりだったんだぞ、心配しない訳には行かないだろ」
「俺のだった1人の家族なんだから」
「ん?なんか言ったか?」
「いや、何でもない」
最後だけ聴き取れなかったな、まぁ後でいいか少し眠くなってきた。
「ごほん、儂がいるの忘れてないか?」
「すみません陛下、空也が目覚めたのが嬉しくてつい我を忘れていました」
テスタは直ぐに陛下に謝罪をした。
「スマンが本題に戻っても良いか」
「なら自分は退出しましょうか?」
そう言ってテスタが退出しようとすると
「後に話すことになる、それなら今居てくれた方が助かる」
「分かりました」
テスタは直ぐに振り返り近くにあった椅子を持ってきてそれに腰をかけた
「さっきの話の続きなのだが話す気になってくれたか?」
俺は少し考えたあとこう答えた
「すみません陛下、自分が話せることはありません」
「空也それは俺にも言えないのか」
テスタは少し圧を掛けるように言ってきた
「ああ、すまない」
あの神が本物だったらと仮定して言葉が警告ではなく命令の類だとしたら言ってしまった場合何があるか分からない。
そんな不確定な出来事に国の長と軍の中枢人物の2人を巻き込む訳にはいかない。
「だとしたら民の皆にはどう説明する、 納得させるだけの理由を提示できるのか?」
「それに国の長として危険な要因を把握しないわけにはいかない」
「それなら大丈夫だ、あれは俺の意思でした事だ」
「それに帝国民になら、俺の正体を明かして白銀空也が独自の兵器を軍の許可無く使ったため投獄し尋問しているとでも言えばいい」
「ふざけた事抜かしてんじゃねーぞ!」
テスタは本気で激昂していた。
その叫びは骨の髄まで伝わってきた。
だが直ぐにテスタは我に返る、
「すまない、だが言わせてもらうぞ」
「俺はあなたのことを本気で尊敬してるんだ、それをくだらない嘘なんかで皆からの評価を下げさせる真似をしたくはない」
「それに何故言わないのかは知らないが空也には真実を言う義務がある」
テスタが言ってることはもっともだ。
だとしても、
「言わないんじゃない、言えないんだ」
テスタは何かを言いかけたがその言葉を出すことは無かった。
だがその苦しそうな顔を見れば言いたいことは何となく伝わってくる、
「ならひとつ聞かせてくれ、何でソレイユ=フィーじゃなくて白銀空也なんだ」
ソレイユ・フィーとは俺が軍に正確にはAysに所属している時の名前だ。
「白銀空也の名前はどう扱われたって構わない、だがこの名前だけはダメだ」
「何で!」
続きを言おうとしたその時、
「あの~、そろそろお時間なので~皆さん退出していただけますか~」
「見たところそろそろ限界のようですし~」
院長がそう言った瞬間、視界が揺れた。
「あれ?視界が回る」
「続きはまた明日にでもして~今日のところは~一旦お開きにしましょ~」
「分かりましたまた明日伺います」
「儂もまた明日こさせてもらう」
「陛下、テスタすまない他のAysの皆には」
「言わないよ言えるわけがない」
そうして院長を含めた3人が部屋から出て俺も眠りについた。