第97回 戦利品でございます
「かぽーん。でございます」
お嬢様が温泉でごゆっくりなさっておいでる間に、本日の正餐のご用意を進めて参ります。
わたくしの魔法をもっていたしますと、大豆の一つかみもございますれば、それにハンケチーフをふぁさっと被せまして1・2・3・ハイ! でぐつぐつ煮えるすき焼きの出来上がりと相成ります。
が、最近はお嬢様のご希望により、魔法を使用した豪勢なお料理は控えております。
お嬢様はもっと素朴な、たっぷり時間をかけた、地域に根差した食材とお料理をお求めでいらっしゃいます。
更には、わたくしだけでなく、お嬢様ご自身もお料理作りに加わりたいとのお達しでございます。
今回も正餐の、ご用意を進めるに留まりますのはそのためでございます。
さて、日中の釣果をご確認いたしまして、お嬢様が作業をなさりやすいように整頓いたしておこうと存じます。
まず、川魚のヤマメに岩魚があります。
お嬢様が頑張って釣り上げられた、やけに育ちました大物でございます。
それから、浅瀬にいました石貝やシジミもごろごろと。
お嬢様は、これらを佃煮にして保存したいとのことでございます。
後は、回遊魚のマグロに深海魚のアンコウも。
わたくしが川に軽く塩を振りましたところ、塩分につられてやって来ました。
お刺身と鍋にいたしましょう。
ところで、お嬢様が激戦の末に釣り上げられました川の主様でございますが――
お帰りの際、大きな卵をドロップされて行きました。
主様、かつての龍、現在のツノアリトカゲワニヘビの卵は鮮やかな斑模様で、見る角度により様々な風合いを醸し出します。
観賞用にも素晴らしいのですが、中身もとても美味で、王族の婚礼の料理に饗された記録も残っております。
ただ、殻が非常に硬く、どんなノミや大金槌でもびくともいたしません。
わたくしは問題ございませんが、お嬢様が割られるのは不可能とせざるを得ません。
それを主様に伝えますと、爪で軽くヒビを入れてくれまして、温泉に入れておくようにと教えていただきました。
伝説クラスの最高級温泉卵となりそうでございます。
温泉卵には、やはりお醤油でございますね。
他の調味料は邪道でござ……
荒れるとよろしくありませんので、何でもございません。




