第96回 温泉でございます
夕方になりまして、雨はそれほど強くはございませんが、気温はそれなりに下がって参りました。
お庭でご存分に遊ばれ、お汗をかかれたお嬢様には、お身体を冷やされませんよう、ようく温まっていただかねばなりません。
お屋敷に戻りまして、ひとまず水に濡れました革製の胴長服を干し、お嬢様にはカーディガンをお召しいただきます。
すかさずたっぷりのココアとドライバオバブをお出しします。
お心くつろぎながらエネルギーを取っていただく間に、わたくしはバオバブ様の後ろにちょっと出かけるべく、お嬢様の御前を辞します。
バオバブ様の背後に、湿原の観光用などに設置されます木道がございます。
わたくしが今朝方並べたものでございまして、20メートルほど進みますその先には、わたくしが余った岩を輪のように敷き詰めて並べたものがございます。
どこかの遺跡にありそうなストーンサークルみたいではございますが――
わたくし、これよりこの場所に温泉を掘ります。
まず、サークルの真ん中に直立いたします。
ぼんやり立っておりますと……
雨に打たれております上に、お嬢様から27.33メートルもの遥かな距離を空けてしまっておりますわたくし、心身共に寒々しくなって参ります。
そうしますと、
「へっくしょん。でございます」
くしゃみが出ます。
と同時に、わたくしの下、サークルの内側がボゴォと陥没いたしました。
すでにこの場所の地下水脈、岩盤、火山活動などは完全に把握いたしておりますので、岩を並べてじんわりと刺激した後はちょっとした空気の振動でほら、この通りでございます。
大地を割る魔法の応用技――
≪執事之湯≫!!
湯上がりに歩いて戻られることを考慮してのちょっと熱め、計算通りの適温となっております。
ちゃんと竹衝立もご用意いたしまして、不埒者からの目隠しも抜かりありません。
こちらに記すまでもございませんが念のため……
その不埒物とは、わたくしのことではございません。
真実でございます。




