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魔法執事の変態日記でございます。  作者: あうすれーぜ
お嬢様の小学生時代でございます
94/150

第94回 将来の夢でございます


 水面に直立不動の姿勢を保っておりますわたくしの上に、お嬢様が肩車で乗っかっておられます。

 お嬢様は、じっと釣り糸の先、水面に広がる波紋をご覧になっていらっしゃいます。


 わたくしは、お嬢様の更に上に、ぱつんと雨傘を開いております。

 ちょっとした雲行きとなって参りまして、用心にこしたことはございません。


 わたくしが雨傘となってお嬢様をお守りすることも充分可能ではございましたが、お嬢様の御希望により、肩車の方を続行いたしております。



 わたくしもお嬢様も、今は言葉を交わすことなく――

 この、しんと静まり返った時の中、艶やかに色づく紅葉と、碧く深まる水のコントラストを味わっております。



 ぴくん、と釣り糸が揺れました。

 わたくし謹製、シェフの気まぐれ釣り餌に、お魚が掛かりました模様でございます。


「お嬢様。そーっと、静かに糸をお巻き下さい。ただ今掛かりましたのはヤマメでございます」


「わ、分かったわ。急いじゃいけないの?」


「お魚がびっくりいたしてしまいます。無用なストレスは、お魚の味を損なうことと存じます」


「……そうね。命をいただくんだもの。必要以上に苦しめるのは、いけないわ」


 お嬢様がそーっと竿を引き上げますと、大きな川魚、ヤマメがぶらぶらと大人しくこちらを見ていました。

 体長50センチメートルほどございます。


 わたくしが毎朝撒いておりました、魔力を帯びた餌が成長を刺激いたしましたようです。


 お嬢様がびくびくお手を伸ばされますと、全く暴れずされるがままに魚籠にするりと入りました。


 お嬢様には、何か生き物と通じ合うような現象が時折拝見されます。


「ねえ、サン。私、大人になったら、他の所も、いろいろ行ってみたいの」


「は。ご旅行ということでございましたら、わたくしの足と魔力の及ぶ限り、すぐにでもご希望の場所へとお連れいたします。が、そういった意味ではございませんね」


「ええ。いろんな所を探検したいの。今みたいに、サンと、二人で。雨傘があればいいわ」


 お嬢様の素晴らしいご決意に、天もぽつりともらい泣きいたしました。


 わたくしといたしましては、おのれ雨傘お邪魔虫め、と本気ジェラシーでございます。

あのにっくき雨傘とはその後、小1時間に及ぶ大激闘を繰り広げました。

あれほどの闘いはそうそうございませんし、わたくしも大苦戦でございました。


非常に残念なことに、その名勝負は惜しくもお蔵入りとなっております。

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