第93回 遊覧会でございます
すっかり秋めいて参りました、紅葉乱れるお庭でございます。
川幅の広く、流れのゆったりしたところでは、真っ赤に散りました落ち葉がゆっくりゆっくりと水面を遊んでおります。
「わあー。綺麗ね、サン。お水も透き通ってて、紅葉が鏡に映ってるみたい」
「は、お嬢様。お気に召していただき、わたくしも光栄の極みにございます」
「こういう素敵な所で、のんびり過ごすのもロマンティックねー。前から憧れてたの。ねえ、サン。結構、大人っぽくない?」
「お嬢様くらいのお年でございますと、アウトドアレジャーと言えば面白楽しいスポーツ、というものが流行と存じます」
「もうっ、サンってば、何を言っているのか分からないわ」
お嬢様が舟釣りを満喫される間、わたくしは背すじをピシッと伸ばしつつ顔を下にして水面に揺蕩いまして、小舟の役割をいたしておりました。
これぞ執事魔法――
≪執事甲板≫!!
どうやらお嬢様にはご不評でございましたので、わたくしざばぁと上がりまして、水深1.5メートルの水面に両足で直立いたしました。
右足が沈む前に左足を上げまして、左足が沈む前に右足を上げております。
お嬢様はわたくしが肩車をいたしております。
「その観点から申しますと、お嬢様は一足お先に大人のレディーでいらっしゃいますね。ただ、あまりご自分でアピールなさらないほうが、より奥ゆかしいことと存じます」
「あら、言われちゃったわね。……ふふっ、やっぱりこうやって、サンとは普通におしゃべりしている方がいいわ」
そうおっしゃって、お嬢様は釣り竿を抱えたまま、わたくしの頭頂部にちょこんとあごを乗せられました。
川の真ん中に、真っ赤に散りました液体がゆっくりゆっくりと水面を遊んでおります。
このようなこともあろうかと、お嬢様にはぶ厚い革の釣り用ズボンをお召しいただいております。
仮にぎゅっとしがみ付かれましても、わたくしの血液消費量は少なくて済みますので。




