第90回 祭りの後でございます
灯篭祭もお開きになりました。
日付も変わり、街はしんと静まり返っております。
お嬢様はすっかり踊り疲れられ、わたくしの背中でお休みになりましたので、先程お屋敷にお送りいたしました。
で、わたくし再びその広場まで戻りました。
現場検証をなさっておいでるケイヴ様が、お変わりない難しそうなお顔を下に向け、地面とにらめっこを嗜んでいらっしゃいます。
「いかがでございましょう、ケイヴ様。ガラスの靴は見つかりましたか」
わたくし、ブリキのカップに入れたパンプキンスープを、くたびれたコートの背中に差し出しました。
カボチャの馬車の魔法も解けましたので、使用後はスタッフがおいしくいただきます。
「執事殿。いや、今回もトカゲの尻尾切りですわい」
「ケイヴ様の魔力検知にも引っかからないとは、中々のものでございますね。ですが、これで逆に目星は付きましたかと」
ケイヴ様はくたびれた帽子をぐっと目深に押し込められ、熱いスープをハードボイルドにずずっとすすられました。
「んむむ。……儂が長年追っております、とある魔法犯罪シンジケート。違法薬物や人身売買など、叩いて埃の出ん所はない、それはデカい組織ですぞぉ」
ケイヴ様はそうおっしゃってカップを出されましたので、パンプキンスープに唐辛子粉を多少混ぜたものをお代わりにお出ししました。
「そのグループは特殊な魔法の持ち主を狙っておりますね。前回は魔法学校の生徒としてかも知れませんが、今回は明らかにお嬢様個人に御用がおありでした。手口こそ同じでしたが気配の消し方も上手でございましたので、これからは一層の多面的なご警戒が必要と進言いたします。無論、わたくしもお嬢様の護衛を強化いたします」
わたくし真面目な顔で、スープと唐辛子粉の分量を逆にしたものをお注ぎいたしました。
夜は冷えますので、お身体を温めるための、わたくしの思いやりでございます。
いやがらせではございません。
旦那様ではございませんから。




