第86回 モーターショーでございます
今週もお嬢様がお帰りになられました。
領内と王立魔法学校とを繋ぐ、巡回馬車の停車場で、わたくし空気椅子の姿勢をいたして30分ほどお待ちしております。
「お帰りなさいませ、お嬢様。さ、わたくしの膝を踏み台になさってお降り下さいませ」
「ただいま、サン。足は届くから、大丈夫よ」
そうおっしゃって、お嬢様は馬車備え付けの踏み台もお使いにならずにぴょいと飛び降りられました。
が、スポーツがちょっとだけお得意ではいらっしゃいませんので、空中でバランスを崩されました。
あわや尻もちをおつきになるところ、わたくし、ナイスキャッチの栄誉を賜りましてございます。
「御機嫌でいらっしゃいまして、何よりでございます。お嬢様、今晩からの灯篭祭のご準備、すでに整っております。早速、この停車場からお屋敷まで、お祭り用の馬車でお送りいたしましょう」
指パッチンをいたしますと、後ろの空間がぐにゅうと歪みました。
そこから、前後に長ーいリムジンカボチャ馬車が数羽のハトを伴って、煌びやかに、かつゴージャスによっこいしょと登場でございます。
「わあー。すごいわ、サン! ねえ、乗ってみてもいい?」
「もちろんでございます、お嬢様。さ、わたくしの膝を踏み台になさってお乗り下さいませ」
お嬢様はちょっと遠慮なさって、ローファーを脱がれてからわたくしの膝を踏み台にされました。
せっかくお靴でぐりっと踏みしめて頂くチャンスでございましたのに、ここはちゃんとお靴のままと申し上げるべきでございました。
「わあー、すごいわー! おいしー!」
えー、色々と予定とは違いましたが、お嬢様にお喜びいただきまして、何よりでございます。
もしお嬢様がスポーツ万能で、本日もクラブ活動などにご参加なさっていらっしゃいましたら、
あわよくばスパイクシューズでぐりっとしていただくチャンスがあったやも知れません。
そう考えますと、夢はどこまでも広がって参りますね。




