第8回 夜会の支度でございます
このお屋敷から馬車で1時間ほどのんびり進んだところに、夜会の会場がございます。
お嬢様は、ご期待半分、ご不安半分というご様子でいらっしゃいます。
と、申しますのは、お嬢様がこういった社交の場に出られるのが初めてでいらっしゃるためでございます。
本来、夜会にご出席されるのはお嬢様のご両親、旦那様と奥様のはずでございます。
が、なにぶん、旦那様と奥様はいま、隣国の遺跡発掘調査に赴かれておいででございます。
そのため、当家の代表として夜会にご出席され得るのは、お嬢様だけでございます。
また、お嬢様のお年が10歳であることもございます。
すなわち、夜会の途中でおねむになられること請け合いでございます。
が。
「大丈夫。わたし、ルビンフォート家の末裔として、頑張って来るから」
「ご立派でいらっしゃいます、お嬢様。この執事、ご成長ぶりに感涙を禁じえません」
わたくし、そのご気丈なお姿に、ついハンケチーフを真っ赤に染めてしまいました。
……さて、そろそろお出かけのお時間になって参りました。
玄関先にて、わたくしおもむろに四つん這いになります。
先ほど馬車と申しましたが、御者と馬はいま、いずれも海水浴に出かけております。
そのため、お嬢様を背中に直接お乗せしてお送りできるのは、わたくしだけでございます。
お嬢様はわたくしの上に横向きにおかけになり、ネクタイをお手に取られました。
では、出発いたしましょう。
これぞ執事魔法――
≪執事騎士≫!!
流れるような安全運転でございますので、6分ほどあればご到着いたします。
背中に伝わる感触などにつきまして、
わたくし無心の境地でございますので、やましい気持ちは一切ございません。
ただ、少々燃料漏れがあるようです。
わたくしの通ったあと、道には赤い筋が残っております。




