第79回 ドーピングお嬢様でございます (下)
一張羅の執事服をお嬢様に差し上げまして、中秋の夕風が全身に染み渡ります。
何度も申し上げておりますが、このルビンフォート家お屋敷跡地のございます高原、今の時期は夕方にもなりますと、かな~り冷え込んで参ります。
通常、わたくしは魔法を使用するまでもなく、お嬢様のことを想うだけで心も身体もぽっかぽかでございますので、暖房器具はおろか衣服さえも不要でございます。
ただ、それではお嬢様がお寒い思いをされるのと、わたくしが社会的に不要になりますので、火を焚きましてタキシードを身にまといます。
今回はその辺の木の葉を集めて衣服を作りました。
「まあ、素敵。サンの恰好、絵本の妖精さんみたいで可愛いわ」
「はっ。ただちにお嬢様の分もご用立ていたしました」
今のお嬢様にピッタリサイズとなっております。
何故サイズが分かるかと申しますと、フルスケールお嬢様フィギュアを基に妄想と計算を繰り返した結果でございます。
「ありがとう。でも、今はこの、サンの服のほうがいい。ちょっとぶかぶかだけど、それがいいの」
お嬢様はそうおっしゃって、袖の中に引っ込められたお手を合わせて、ぎゅうっと抱きすくめられました。
この辺り、そろそろ紅葉の盛りとなって参ります。
わたくしの葉っぱの服も、いきなり真っ赤に染まりました。
「お嬢様。そろそろご入浴のお時間となって参りました。それと同時に、そろそろ魔力の切れる頃合いかと存じます。今回、リンゴの皮を使用いたしましたフルーツフレーバーの湯となっておりますので、よくお温まり下さい」
「あら……名残惜しいわ。ねえ、サン。ドライフルーツの魔力は干したら飛んじゃっても、ジャムとかのは瓶詰めだから、また大人になれるわよね?」
「お嬢様がお望みとあらば。しかし、お嬢様はこれから自然に、すくすくとご成長なさいます。わたくし、その時のお姿を楽しみにお待ちしております」
お嬢様が湯船に浸かってらっしゃいますと、湯気の他に煙も出て参りました。
下でふいごをふーふーいたしておりますわたくしには当然、全く見えませんし、お茶の間にもセーフでございます。
ご用意いたしました葉っぱの服、お嬢様の分はとても暖かく作っております。
わたくしの分は、膝上25センチメートルでございます。




