第78回 ドーピングお嬢様でございます (中)
大人モードのお嬢様、17、8歳くらいとお見受けいたします。
控えめに申し上げますと、天使を遥かに超えた絶世の美女であらせられます。
具体的なことを記そうといたしますとそれだけで1年分の大河ドラマが出来上がりますので、ここはぐっとこらえることといたします。
わたくし、すかさず懐から姿見を取り出しまして、お嬢様の御前に立てかけました。
お嬢様は鏡に映ったご自身のお姿にびっくりなさっておられます。
「うそ……これがわたし?」
お約束のお言葉を頂戴いたしまして、わたくしもにっこりでございます。
「お嬢様。どうやら、召し上がった果実に含まれる栄養素とわたくしの魔力が反応して、とびきりの成長促進効果が現れたものと思われます。摂取なさった魔力が自然に抜けるまでお時間はかかりますが、いずれ元のお姿にお戻りになります」
お嬢様のご不安を取り除こうといたしましたが、
「まあ。サンのいたずらね。びっくりしちゃったけど、害がないなら別に構わないわ。元に戻るまで、せっかくだからいろいろ楽しんでみようかしら」
抜群の順応性でいらっしゃいました。
お嬢様は時折、わたくしの想像を上回られます。
ちなみに、いたずらではございません。
「お嬢様。つきましては、いまのお姿に合うサイズのお召し物をご用意して参ります。それから、お屋敷内ロフトの拡張も。いずれも早急にいたしますので、魔法の使用許可をいただけますでしょうか」
「あら……仕方ないわ。サンにもゆっくりお休みして欲しかったんだけど。……あ! じゃあ、ロフトはお任せするけど、お洋服はわたしがサンの服を借りるっていうのはどう? サンもいたずらしたことだから、これでおあいこね!」
お嬢様が……わたくしの服をお召しになる……ですと。
どうやらわたくし、向こう数十年分の運を前借りしてしまったようでございます。
というわけでわたくし早速、今着用しておりますタキシードをズバッと脱ぎました。
魔法の使用許可と申しましても、ロフトの家具をずずいと動かしまして、
ハンモックをちょっと広げるくらいでございます。
そちらは手動で十分でございますが、
お嬢様のいまのお姿を屋内の高い位置から眺めますのに、
視力強化は欠かせませんので。




