第74回 炭火の静かに爆ぜる音でございます
お茶の後で、お嬢様が早く果物を取りに行きたいとせがまれました。
しかし、そろそろ日も暮れます。
わたくしが発光しながらエスコートいたしましてもよろしいのでございますが、それでは今一つムードがございません。
その方法は後日、イカ釣りの際にでも採用いたしますが、今回は大人しく翌日を待つことといたしました。
「じゃあ、見るだけ! 見るだけなら……いいでしょ?」
お嬢様がわざとらしく小首を傾げておねだりなさいます。
が、その程度の可愛らしさ攻撃ではわたくしを倒すことは出来ません。
鼻血をバックファイアのごとく放ち真後ろに卒倒しそうなところを、すんでのところでこらえます。
かかととアキレス腱の力だけで地面をつかんで上体を支え、後頭部を2ミリメートル浮かせて激突を防ぐことに成功いたしました。
「本日の所はどうか、ご辛抱下さい。このあたりは、秋の夕方はとても冷えて参ります。お嬢様がお風邪を召されてはこの執事、看病の喜びで嬉し死に……いえ。心配で食事も喉を通りかねます」
正直なところ、わたくしは食事を摂らずともお嬢様分を補給出来れば活動可能でございます。
お嬢様分とは、お嬢様を愛でることにより摂取される栄養素のことでございます。
それはよろしいのでございますが、わたくしの懇願をお聞き入れいただき、お嬢様は夕食後、お早めにお休みになる運びとなりました。
「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、でございます」
お嬢様が上階のロフトに行かれて消灯後でございます。
バオバブ様の中は天然の空調が働きますのでほんのり暖かくはあります。
しかし、それでも底冷えのする夜、暖房は必要と存じます。
わたくし、一番下の階で筋力トレーニングを執り行っております。
運動により発せられる熱が屋内を循環し、お部屋はぽっかぽかでございます。
これぞ執事魔法――
≪執事立伏≫!!
ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、
ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、
ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、
ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、
ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、
ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、
でございます。




