第73回 栄養満点でございます
今週末も、お嬢様がお帰りになられました。
わたくし、いつもこの日は一日千秋の思いで、待ち焦がれるあまり道端に空間転移魔法の中継陣を遠隔操作でところどころにこっそり設置しております。
お嬢様の乗られた馬車がその上を通りますと、中継陣がこっそり発動いたしまして、ちょっぴりだけ先の道へ転移いたします。
その繰り返しで、お嬢様はご予定よりもちょっぴりだけお早いご到着と相成ります。
これぞ執事魔法――
≪執事迎火≫!!
「お帰りなさいませ、お嬢様。この度お屋敷の周囲に、様々な種類の果樹をご用意いたしました。明日はお天気もお嬢様に微笑んでございます。のんびりと収穫など、いたしましょうか」
「ただいま、サン。お庭を頑張って改造してくれたのね。ありがとう。すぐに見に行きたいんだけど、その前にサンの淹れてくれたお茶を、冷めないうちにいただくわ」
わたくし、お嬢様のお荷物をお預かりしながら、恭しく頭を下げました。
「お心遣い、ありがとうございます。本日はバオバブ様の若葉を蒸して抽出いたしました。渋くはございません。お茶請けはクルミとレーズン、干し柿もございます」
お嬢様のかばんの持ち手をにぎにぎいたしまして温もりを堪能いたしつつ、屋外の丸太製カフェテーブルにお嬢様をご案内いたします。
「素敵ね、サン。わたし、果物はそのままでも好きだけど、こうしてサンが干したものも滋味があって好きなの」
わたくし、今のお嬢様のお言葉を玉露のようにまろやかに抽出いたしまして、わたくしに対する愛の告白に無事変換成功いたしましたので、例によりまして鼻血モードとなっております。
「ありがとうございます。わたくしが小執事に任せてほったらか……丹精込めて育てた甲斐がございました。この果実を毎日お召し上がりになりますと、お身体も丈夫になりますし、すくすくとご成長なさること間違いなしと存じます」
お嬢様もお喜びになってお代わりをご所望になりましたことで、何よりでございます。
鼻血落ちとは申しますものの、毎回落ちが最後に来ているわけではございません。
こう、心の温まる展開でゆっくりと締めていきますのも、
ハートフルショートファンタジーの面目躍如と存じます。
決して、惨劇をごまかしたりしているわけではございませんよ。




