第71回 悪魔の取引でございます
ただいま、お屋敷が粉々に砕け散ってから初めて、旦那様への定期連絡をいたしております。
が、なにぶん、これまで映像と音声を投射するための魔力水晶はいま、崩れたお屋敷の下……
から引っ張り出しまして磨き直しました。
それを、ニュータイプお屋敷で使うお嬢様の身の回りの品を揃えるための資金としてさくっと執事ネットオークションで売却いたしました。
執事ネットオークションとは、全国にいらっしゃるわたくしの知人を頼りに、わたくしが通話魔法で仲介するオークションでございます。
今回は、いつもお世話になっております山岳地方の少数民族の方々にお譲りいたしました。
で、そのため、旦那様との連絡を取れるのは、わたくしのその通話魔法だけでございます。
わたくし、バオバブ様の葉っぱで作ったコップに糸を付けまして、長ーい糸電話、もとい糸通話魔法を使用しております。
「もしもし、わたくしわたくし、でございます。この前お屋敷が木っ端微塵に吹き飛んでしまいまして、お金が必要なのでございます。つきましては、今から申し上げます口座番号に現金のお振込みを」
『新手の詐欺か何かか。幾重にも防御魔法を施してある我が屋敷が、そうそう吹き飛ぶわけがなかろう』
「それがお嬢様の魔力暴走……いえ、飛んで来た石ころがちょんと決壊のツボを突っつきまして。ガラガラーと」
『……怪盗襲撃の話までは聞いているが。まあいい。詳細は手紙で送ってくれ』
「は。ただ、お屋敷の筆記用具は残さず売却……いえ、お屋敷の藻屑となってしまいまして。インクもございませんので、わたくしの鼻血で代用をさせて頂き」
通話が切れました。
まあ、旦那様の声はお嬢様の透き通るお声と比べますとお月さまとスッポンでございますのでよろしいのでございますが。
さて置きまして、早速インクを精製いたします。
まずお嬢様のことを頭に思い浮かべます。
シチュエーションにより血液中のヘモグロビン濃度が変わります。
ので、カラーバリエーションの鼻血をジョバーと出します。
これぞ執事魔法――
≪執事印刷≫!!
文面はお嬢様の近況と愛らしさに関しまして、イラスト付きでございます。
内緒でございますが、旦那様の私物はあらかた売却済みとなっております。
その分、お嬢様のお勉強用筆記用具が充実いたしました。
お高い万年筆など、特に不要でございますので。




