第70回 虫の声でございます
先程のリンゴ狩り、わたくしもお土産におひとつ頂いてしまいました。
色つやと言い形と言い、とても見事なリンゴでございます。
食べるのが勿体ないくらいでございますので、磨いてオブジェとしてお部屋に飾ってもよろしいのですが、ここは増やすことにいたしましょう。
まず、バオバブ様の横の適当な地面に適当な穴を掘ります。
それからリンゴを埋めます。
すると芽が出まして木になりましてリンゴが実ります、という寸法でございますが。
既存の樹木や果実を操作して形状や位置を調整することは、執事のお仕事として当然の嗜みでございます。
しかし、種から果樹を育てるということは、わたくし不勉強ゆえあまり挑戦したことがございません。
今回は無理せず、仲間にご協力をお願い申し上げましょう。
一旦、四つん這いになります。
この姿勢、わたくしにとっては直立不動の次に、取る頻度の高いものでございます。
そのような豆知識は隅に置きまして、お腹からよく響くバリトンボイスで仲間を呼ぶ合図をいたします。
「おえ~~~~。でございます」
はい。
そうしますとわたくしの口の中から、小さなタキシードをまとった小人が40人ほどぞわぞわ出て参ります。
カマキリの卵が孵化するようでございます。
こちら、わたくしが手勢を必要とするときにのみ呼び出します、小執事でございます。
これぞ執事魔法――
≪執事式神≫!!
今回のオーダーは、皆で手を繋いで輪になって踊ることでございます。
小執事たちはキャワキャワキャワキャワと一斉に鳴きまして、草地に広がっていきます。
わたくしはその後ろで、お花見会場の酔っ払いのように頭にネクタイを巻いて松明を2本ほど挿み、腰みの1枚で太鼓を叩きます。
すると芽が出まして木になりましてリンゴが実りました。
大地の精に働きかけて願いを叶える儀式、無事成功でございます。
これぞ執事魔法――
≪執事大祭≫!!
ここだけのお話……
育毛にも効きます(個人の感想でございます)。




