第69回 リンゴ狩りでございます
本日のわたくしの授業は、社会科見学といたしまして、クラスの皆様とリンゴ狩りに出かけました。
リンゴの果樹園は学校の敷地内にございますが、なにぶん敷地自体が広大でございますので、校舎から徒歩で行くにはちょっとお時間がかかってしまいます。
ので、ここは馬車をチャーターいたしました。
が、予算を節約いたしましたので、例によりまして馬車には馬と幌と座席と車輪がついておりません。
箱でございます。
その下にわたくしが潜り込みまして、世界を支える亀のようにうんとこしょと背負います。
あとはこれで現地まで参りましょう。
もちろん、皆様は快適にお過ごしいただけます。
車軸の魔法の応用技――
≪執事輸送≫!!
予約しておりました果樹園に到着いたしますと、頭上から歓声が響き渡りました。
皆様、大喜びのご様子でございます。
もちろん、ここにはただ遊びに来たわけではございません。
授業の一環といたしまして、地域の産業や、仕事人の知恵と工夫を間近で知ることの出来る、またとない機会でございます。
「おいしそー! 私、ここのリンゴなら100個は食べられるわ!」
お嬢様もすっかり大はしゃぎでいらっしゃいまして、わたくしの真面目なお話を半分しかお聞きになられていません。
まあ、ここのリンゴ狩りは時間いっぱい食べ放題で、お土産に1個持って帰ることが出来ます。
この品種は小ぶりでございますが実が堅く、甘味と酸味がぎっしり詰まっております。
「それにしても木が横に広くて低いわね、サン」
「左様でございます、お嬢様。樹木の形を人の手で調整いたしまして、実が付きやすく、収穫もしやすくなっております。農家さんの研鑽と努力の成果でございますね」
などと真面目なことを申しておりますうちに、お嬢様は腹痛を訴えられました。
毒リンゴではなく食べ過ぎでございます。
ぽんぽんをさすって差し上げたいところではございますが、わたくしがお嬢様のお腹に直接触れますと、恐らくこの果樹園がリンゴのように赤く染まります。
ので、ここは手の平を旋回させまして、音波でマッサージといたしました。
本当に毒リンゴだったといたしましたら、
その場合、白馬の王子様のご登場を待たねばなりません。
わたくしには望むべくもありませんが、
もしわたくしが王子様の役目でしたら、
恐らく全身の血液を失ったのちに昇天してしまうことでしょう。




