第66回 思い出話でございます (上)
「では、まずはわたくしが初めてお嬢様にお会いした時のお話からでも」
わたくし、四つん這いになりまして背中に熱々のティーポットとバオバブぜんざいのお鍋を乗せ、持ち上げました頭の上に足付きフルーツ皿を置き、ドライバオバブを絶妙なバランスで積み上げて参ります。
ティーテーブル兼鍋敷きの役割を滞りなく拝命いたしまして、皆様にくつろいでいただきながら回想シーン、スタートでございます。
わたくしが召喚された魔法陣は、床に描かれた円形のようでもありながら宙に浮かんだ球形のようでもある、不思議な形でございました。
その真紅の光をまき散らす巨大な魔法陣からよっこいしょと抜け出まして、殺風景な石のお部屋の隅においでましたお嬢様に声をお掛けすべく近づこうといたしますと、
「ひぃっ」
とお嬢様は怖がられてうずくまられてしまいました。
ご無理もありません。
恐らく、先の召喚の儀は生物だけを転送するものだったのでしょう。
わたくし当然、全裸でございました。
魔法陣からは怪しげな光線がひゅんひゅん出ておりまして、ある程度はいい感じに隠せておりましたが、いつまで目隠しの効果が続くか定かではありません。
かと申しまして手をこまねいているわけにも参りません。
そこでわたくし、ばたっと床に全身を投げ出しました。
これなら座り込まれて怯えていらっしゃるお嬢様の角度からお見えになるわたくしの姿は、大部分が隠し通せます。
後はお嬢様に優しく微笑みかけながら、ゆっくりと近づいていくだけでございます。
じりじり……
じりじり……
どこの者とも知れない、全裸の成人男性が、にたにた、うふふ、と笑いながら、冷たい床に指を突き立て、這いずりながら近づいていきます。
お嬢様は、その小さな小さなお肩をきゅうっと竦まされます。
泣き腫らされた紅い目をわななかせ、お靴を滑らせながらお尻で少しだけ後ずさりされ、壁にとんっとお背中が当たりました。
もうこれ以上は下がれません。
わたくしはお嬢様が止まられたのを確認いたしますと、スピードを落としまして、更にゆっくり、ゆっくりと、片手を伸ばしては身体を引き寄せ、爪で床をこすっては顔を前に突き出します。
お嬢様に充分近づいて、頭をぬうっと上げた時、魔法陣の光線がわたくしの顔を下から紅く照らし出しました……
ちょうどこんな風に。
とわたくし指先から光球を作り出しまして、アルギュロス殿下とトモミ様の御目の前で、顎の下を照らしてみました。
今回、筆が乗りすぎたせいか、危うく1000文字に達しそうでございました。
1回あたり600字くらいとは申しておりますが、
多少のインフレーションは発生いたしちゃうこともございます。




