第65回 お嬢様、お誕生日おめでとうございます (下)
お昼過ぎに、また扉がノックされました。
銀髪褐色肌三白眼の貴公子、アルギュロス殿下でいらっしゃいます。
お嬢様は少しだけびっくりなさっておられましたが、
「……招待状が届いていた。ご丁寧に、空間転移魔法の往復チケット付きだ。……で、誕生日とのことだな」
と、蝋で閉じられた封書を差し出されました。
「我が国と我が家のしきたりだ。誕生日にはカードを渡す」
そうおっしゃるや扉を閉めようとされましたので、わたくしが引き留めようといたしましたが、お嬢様のほうが早く進み出られまして、アルギュロス殿下のお手を取られました。
「どうもありがとう! せっかく来てくれたんだし、ゆっくりして行って!」
わたくし、超高速で反復横跳びをいたしまして分身を作り出し、片方は優雅に微笑みを浮かべつつももう片方にはハンケチーフをくきーと噛ませました。
狭い屋内でどたばたいたしておりますが、お掃除は完璧でございますゆえ埃は立ちませんのでご安心下さい。
それはさて置きまして、わたくしお嬢様にご許可をいただきまして封書を開封いたしました。
「お嬢様。こちらは世界一価値のある、肩たたき券でございます」
綺麗に漂白された羊皮紙に金の箔押しをほどこされたカード。
これは隣国の公的文書に使われる形式で、法による強制力が発生いたします。
文面はアルギュロス殿下直筆で、このカード1枚につき1時間、万難を排し剣の稽古を付き合うという趣旨のことが書かれてございます。
外国の貴人と正式なお約束事を取り付けられたお嬢様、また一歩貴族としての前進でいらっしゃいますね。
「大したことではない。俺様も、この国の奇行士……奇人か。ともコネクションが取れた。……しかし貴様ら、いつもこんな感じなのか?」
「わたくしがこちらにお仕えし始めてしばらくは、お嬢様も人見知りのためびっくりどっきりの日々でございました。よろしければ、お土産話でも」
ついでにお茶のご用意もいたしましょう。
バオバブ様の葉っぱを蒸してお茶を淹れ、果実を軽く干したものでございます。
わたくしの分身を作り出す手段といたしましては、
反復横跳びの他にフルスケール執事フィギュアの作製などもございます。
しかし、わたくしがそういったものを作ろうといたしますと、
何故か途中でお嬢様フィギュアのバリエーションが追加されていきます。




