第63回 お嬢様、お誕生日おめでとうございます (上)
(わたくし、執事でございます)
(ただいま、日付をまたいだところでございます)
(お嬢様はお休みでいらっしゃいます。騒がしくいたしますといけませんので……)
(わたくし、全く声を出さずに、頭の中に直接語り掛けております)
えー、執事レポート、後は普段通りの進行でお届けいたします。
実は本日、お嬢様のお誕生日でございます。
わたくしの故郷で使用しております太陽暦に換算いたしますと、10月4日に相当いたします。
お嬢様のお誕生日が10月4日……
何かの語呂合わせのような気もいたしますが、偶然でございます。
お話を戻しまして、バオバブ様の2階、吹き抜けのロフトがお嬢様の私室となっております。
生きた樹木の壁による天然の空調効果で、秋冬は暖かくお過ごしいただけます。
扉はございませんので、わたくし、そーっとお邪魔いたしております。
お嬢様はハンモックの上で、すやすやモードでいらっしゃいます。
わたくしはあえて、そちらは見ないようにいたしております。
淑女の寝顔を覗き込むのはマナー違反でございますし、鼻血の爆音でお嬢様を起こしてしまうわけには参りません。
で、お勉強机の上に、したためておきましたバースデイカードをふわりと置きまして、作戦成功でございます。
急いで落下防止柵を乗り越えくるくるっと飛び降りまして、顔面から床にびたーんと着地いたしました。
びたーんは擬音語ではなく擬態語でございますので、完全無音となっております、ご安心下さい。
最後に、頭に巻いておりましたほっかむりと差し込んでおりましたバオバブ様の木の枝を外しまして深夜の任務完了でございます。
仮にお嬢様がふとお手洗いに起きられましても、わたくし壁に張り付きまして事なきを得た次第でございます。
これぞ執事魔法――
≪執事迷彩≫!!
(バースデイカードは、もちろんわたくしの手書きでございます)
(お嬢様へのお祝いの気持ちと、日頃の学校生活の労いとを、)
(およそ10万字ほど綴りました、笑いあり涙ありの感動超大作でございます)
(きっと、この物語よりも面白いことと存じます)




