第61回 一人遊園地でございます
本日は、調理実習の授業がございます。
わたくしは家庭科の担当教師ではございませんが、後ろで見学をさせていただけることになりました。
生徒の皆様は、何だか大喜びでございます。
わたくしがどんなヘンテコな動きを見せてくれるのかが楽しみのご様子でございます。
わたくしはいつも優雅かつスタイリッシュを心掛けておりますが。
さて、今回は、果物の皮むきと切り分けの練習でございます。
この学校は貴族の子女が多く通っておいでのため、まともな家事をしたことのない子もかなりいらっしゃいます。
爵位をお持ちでも素朴で庶民派の家の子や、叩き上げの騎士の子、才能を見込まれて奨学金を受給している市井の子もおいでまして、そういった方々はほぼ例外なくそつなくこなす上面倒見もよいので、ここでは身分に関わらず皆様から親しまれています。
それで、このクラスでは、過半数が刃先の丸い包丁をおっかなびっくり握り、リンゴや柿、マンゴーあたりと必死に格闘なさっています。
お嬢様は堂々となさっておいでですが、如何せんぶきっちょなところがチャームポイントでいらっしゃいまして、リンゴを割と厚めにむいておられます。
後程、刻んでジャムにいたしましょう。
わたくしも体験させていただきました。
指先にブドウを1粒立てまして、キュイーンと回転させながらお刺身用の柳刃包丁を当てましてチューンと皮を削り取ります。
刃の触れた部分が磨いたようにピカピカで、柔らかいビー玉のようになりました。
周囲から喝采が巻き起こりました。
アルギュロス殿下もパイナップルを放り投げられると、文化包丁を一閃なさいました。
ぼとりと落ちたと同時に、パイナップルは8つに分かれ、芯も綺麗に取られた上果肉がひとくちサイズに切り分けられています。
こちらも喝采が起こりましたが、先生は胸筋をビキビキと鳴らして「危ないから後で説教な」とおっしゃっていました。
調理実習の後、わたくし屋上に立っております。
両手を横に広げまして、先程皮をむきましたフルーツと、お洗濯いたしましたお嬢様のお召し物を腕に掛けながらやんわり回転いたしております。
この回転の独特なテンポと角度調整が風を的確に捉え、乾燥も瞬殺でございます。
これぞ執事魔法――
≪執事木馬≫!!
女児衣類を嬉しそうに抱えてふらふら回る成人男性。
雲ひとつない穏やかな青空でございます。
今回、一番熱中しましたのは、
いちごの種取りでございます。
あの表面にある細かーいのを、
ちまちまちまちまちまちまちまちま。
時が経つのを忘れてしまいますね。
お嬢様のことは片時たりとも忘れませんが。




