第60回 クルミトレーニングでございます
お洒落なバスケット片手に、わたくし、校舎の屋上にふわりと到着いたしました。
もっと素早く移動可能ではございましたが、あまり音速の壁を突破いたしますと、衝撃波が発生いたしまして近隣へのご迷惑になります。
かと申しまして、10000メートルほどの高高度をマッハ100で飛行移動いたしましては、お嬢様との物理的距離が離れすぎてしまいますので、わたくしの望むところではございません。
……何やら言い訳がましくなってはおりますが、それは道行く人々から奇異の視線をいただいたこととは特に関係ございません。
「本日の魔法科学のお時間、わたくし、ちょっとした教材をご用意いたしました。皆様にお配りいたしました、鬼神グルミでございます。お一人当たり3粒ずつございますね。これを使いまして、魔法の練習をいたしましょう」
学校への道中、木の実を拾って参りました。
このため樹上を移動しておりましたわけでございますが、あわや職務質問を受けそうになりました。
まあそれはよろしいのですが。
「手の上にクルミを3粒とも乗せまして、魔力を照射して気流を出します。それでクルミを浮かせながら、回転させて擦り合わせます。クルミ同士が離れないように、出来るだけ長い間回転させてみましょう」
生徒の方々は大喜びで、競い合いながら練習を始めました。
この年齢くらいになりますと、習熟度に個人差が大きく出て参ります。
体育の時間に行う縄跳びで例えますと、後ろ二重交差飛びを連続して出来る子もいれば、普通の交差飛びに手こずる子もいます。
それと同じように、クルミ3粒を2セットも浮かせてカリカリと回すことの出来る子もいれば、1粒を手のひらに乗せたままやっとスピンさせたところ、という子もいます。
ちなみに、出来るのはアルギュロス殿下で出来ないのはお嬢様でございます。
「執事……いや、先生。クルミが割れたので新しいのをよこ……いただきたい」
アルギュロス殿下の練習されていた教材が次々に割れていきます。
鬼神グルミはとても硬く、平均75キログラムの圧力に耐えることが出来ます。
これで殿下は、クルミ割リストへのクラスチェンジ条件を達成なさいました。
更に練習を積みまして牡蠣開ケストになりますと、王都の河口でよく獲れます
肉厚のクラリオン牡蠣を露店販売いたしますのに極めて都合がよろしくなります。
通は唐辛子とワインヴィネガーでちゅるっ、でございます。




