第6回 午後のお散歩でございます
昼食後、お嬢様はおやつの前にお散歩に行きたいとおっしゃいました。
わたくし、護衛のためにもお供をいたします。
このお屋敷、避暑地に建っておりますが、真夏の午後の日差しが強い時間帯でございます。
本来、お散歩には日傘が欠かせません。
が、なにぶん、お嬢様がお持ちの高級日傘はいま、小姓たちの里帰り中のチャンバラごっこや虫取り用に、48本全て貸し出し中でございます。
そのため、お嬢様を直射日光からお守りできるのは、わたくしだけでございます。
お嬢様はただいま、袖のない真っ白なサマードレスをお召しになり、外出用の足首まで保護するサンダルをお履きになりました。
そして、その月光を流したように滑らかに透き通る、真っ直ぐな金色のおぐしの上には、帽子が乗っておりません。
ですが、ご心配には及びません。
このようなこともあろうかと、わたくし、ご準備はいたしております。
懐から、2メートル近くある竹竿を取り出しまして、それをわたくしの背中とジャケットのあいだに、横向きに渡します。
竿の端にジャケットの隅を引っかけ、かかとを揃えて両手を広げます。
あとは、お嬢様が玄関からお出になるタイミングで屋根から飛ぶだけです。
これぞ執事魔法――
≪執事滑空≫!!
わたくしの影がちょうどお嬢様にかかるよう調節いたしますので、お嬢様の小さなお身体には灼けつくような陽光が刺さることなど、全くございません。
お嬢様は心置きなく、あっちへ行かれたりこっちへ戻られたり、そっちの辺りをくるくる回られたり、ご自由にお過ごしいただけます。
なお、お嬢様が立ち止まられて虫や野花を眺めておられるときは、わたくし頑張ってホバリングいたします。
ふんっ、ふんっ、と声がいたしますが、お嬢様は鳥の声と思われたようで幸いです。
「ねえ、サン。あの鳴き声は、なんていう鳥か知ってる?」
「お嬢様、あれはナンチャッテオオシツジガラスでございます」
「サンって物知りね。教えてくれて、ありがとう!」
「恐悦に存じます(鼻血)」




