第59回 天狗の仕業でございます
お嬢様が登校なされて2時間ほど経過いたしました。
そろそろ、授業のご準備をしなくてはいけません。
わたくし、執事でございますと同時に、お嬢様の通われる魔法学校の非常勤講師でございます。
次の魔法科学の時間まであと15分、このノスタルジックお屋敷からはおよそ200キロメートルほど離れております。
ですが、ご心配にはおよびません。
わたくし、空間転移魔法を行使出来ます。
一般に、空間転移の安全有効範囲圏内で学校にたどり着くまで、最低4回は魔法を使わなくてはいけません。
それより少ない回数で無理矢理行こうといたしますと、身体があっちとこっちで分かれちゃったり、異次元空間に迷い込んで二度と出られなくなったり、途中でハエなどがいた場合は合体しちゃったりと、パニックホラーになってしまいます。
達人でしたら、単純に魔力が強くて有効範囲が広かったり、途中に魔力の中継地点を設けて魔法を連続使用したりということも出来ます。
そういった一般の魔法の応用はわたくしも出来ますが、今回わたくしの用います魔法は、更に安全確実でございます。
まず、頭にお嬢様のことを強く思い浮かべます。
すると、全身に力がみなぎって参ります。
わたくし、ただいまお屋敷の屋上、すなわち樹上に立っておりまして、こちらからは周りの景色がよく見えます。
この木よりも高い木はこの辺りにはございませんが、それなりの森林や雑木林はいたるところにございます。
そちらを目がけまして、軽やかに800メートルほどジャンプいたします。
あとは足の裏で梢を撫でるように飛び移るうち、スピードは上がりまして亜音速くらいにはなります。
国内に使用者はあまりおりませんが、低空交通法では高さ1キロメートルまでの飛行魔法は、時速100キロメートルの制限が掛かっております。
わたくしの場合は立ち幅跳びでございますので、憲兵の方からも許可をいただきました。
これぞ執事魔法――
≪執事忍者≫!!
秋風を味わいつつの出勤でございます。
この調子でございましたら、5分くらいで到着いたします。
わたくしの故郷には、馬車よりも早い乗り物が数多くございます。
車窓からの景色に脳内でアクションヒーローを並走させ、
木の上やガードレールを猛スピードで飛び移らせた経験はどなたにもあるかと存じます。




