第57回 夜明けのコーヒーでございます
「おはようございます、お嬢様。爽やかな朝でございますね。こちらの木彫りの器にお水をご用意いたしておりますので、ご洗顔なさって下さい」
瓦礫を枕にお休みのお嬢様がお目を覚まされました。
「あら……。おはよう、サン。そういえば、お屋敷が跡形もないわ」
寝ぼけまなこのお嬢様。
わたくしがここにお仕えして以来、最高の報酬でございます。
「お屋敷は残念ながら細かい直方体のブロック状に、綺麗に分解されてしまいました。わたくしの力が至らぬばかりに、申しわけございません。修復いたします間、こちらの大木をくり抜いたお家をご用意いたしております」
それをお聞きになった瞬間、お嬢様のお顔がぱあっと輝きました。
ああ、最高の報酬が……
いえ。
「わあ。凄いわ、サン! わたし、こういう絵本に出てきそうな家に住みたかったの!」
メルヘンチックお屋敷をお気に召していただけたようで、何よりでございます。
「朝食にいたしましょう。バオバブの実と無事だったベリーの盛り合わせ、それからバオバブの花と若葉のサラダでございます」
バオバブの実はとても栄養豊富な食品でございます。
ちなみにわたくし、お嬢様の防寒具のために、かつてこれでひと財産を築いて、遥か南東の山岳地帯にいます少数民族の方々とコネクションを作りました。
「お召し物はこちらにございます。バオバブの樹皮から繊維を取って織りました、あちらの民族衣装をクラリオン風にアレンジしたものでございます」
「エキゾチックね。寄宿舎のみんな、羨ましがっちゃうかしら」
「食後にお飲み物をどうぞ。バオバブの種を焙煎して抽出いたしましたバオバブコーヒーでございます。ミルクの代わりに、バオバブの実を絞ったジュースをひと匙、スプーンもバオバブの枝から作りました」
後はお嬢様が学校にいらっしゃる間に、内装を整えておきましょう。
今回より、お屋敷編からバオバブハウス編になります。
が、特に大きく変わることはございませんし、章分けもいたしておりません。
作者の頭も割りと空っぽでございますので、どうぞお気軽にお楽しみ下さい。




